・・・私は勝手が分らぬので、ぼんやり上り口につっ立っていると、すぐ足元に寝ていた男に、「おいおい。人の頭の上で泥下駄を垂下げてる奴があるかい。あっちの壁ぎわが空いてら。そら、駱駝の背中みたいなあの向う、あそこへ行きねえ。」と険突を食わされた。・・・ 小栗風葉 「世間師」
・・・ ええ情ないと、気も張も一時に脱けて、パッタリ地上へひれ伏しておいおい泣出した。吸筒が倒れる、中から水――といえば其時の命、命の綱、いやさ死期を緩べて呉れていようというソノ霊薬が滾々と流出る。それに心附いた時は、もうコップ半分も残っては・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・「……君はひどく酔払っていたから分らないだろうがね、あの洲崎で君が天水桶へ踏みこんで濡鼠になった晩さ、……途中水道橋で乗替えの時だよ、僕はあそこの停留場のとこで君の肩につかまって、ほんとにおいおい声を出して泣いたんだぜ。それはいくら君と・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・られ候くらい、母上もまたあえて自らワッペウ氏をもって任じおられ候、天保できの女ワッペウと明治生まれの旧弊人との育児的衝突と来ては実に珍無類の滑稽にて、一家常に笑声多く、笑う門には福来たるの諺で行けば、おいおいと百千万両何のその、岩崎三井にも・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・女は、「おいおい、その灰色の牝牛たちよ、 おまえもお家へかえるのだよ。」と、その牛も呼びました。それから羊も山羊も馬も豚も、すっかりあつまって来ました。そしてみんなで列をつくって、女のあとについて、どんどん湖水の中へかえ・・・ 鈴木三重吉 「湖水の女」
・・・一曲りずつ下りるにつれて、女の歌っているのがおいおいに鮮かに聞き取れる。「ねんねしなされ、おやすみなされ。鶏がないたら起きなされ」と歌う。艶やかな声である。「おきて往なんせ、東が白む。館々の鶏が啼く」と丘を下りてしまうと、歌うのは角・・・ 鈴木三重吉 「千鳥」
・・・火の目小僧はじれったがって、「おいおいだめだよ、ぶくぶく。こんどはおれの番だ。」と言いました。ぶくぶくはしかたなしにいそいでからだをちぢめました。それと一しょに、水は一どにもとの泉へかえりました。 火の目小僧は、水がすっかりもとのと・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・私は泥にうつぶして、いまこそおいおい声をたてて泣こう泣こうとあせったけれど、あわれ、一滴の涙も出なかった。 くろんぼ くろんぼは檻の中にはいっていた。檻の中は一坪ほどのひろさであって、まっくらい奥隅に、丸太でつくられ・・・ 太宰治 「逆行」
・・・「ぷ! とんだ責任だ。別れ話だの何だのと言って、またイチャつきたいのでしょう? ほんとに助平そうなツラをしている。」「おいおい、あまり失敬な事を言ったら怒るぜ。失敬にも程度があるよ。食ってばかりいるじゃないか。」「キントンが出来・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ と言い、旦那さんは、つかつかと私の隠れている机のほうに歩いて来て、おいおい、そんなところで何をしているのだ、ばかやろう、と言い、ああ、私はもそもそと机の下で四つ這いの形のままで、あまり恥ずかしくて出るに出られず、あの奥さんがうらめしくてぽ・・・ 太宰治 「男女同権」
出典:青空文庫