・・・ 風の強さの程度は不明であるが海嘯を伴った暴風として記録に残っているものでは、貞観よりも古い天武天皇時代から宝暦四年までに十余例が挙げられている。 千年の間に二十回とか三十回といえばやはり稀有という形容詞を使っても不穏当とは云えない・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・冬木町の名も一時廃せられようとしたが、居住者のこれを惜しんだ事と、考証家島田筑波氏が旧記を調査した小冊子を公刊した事とによって、纔に改称の禍 冬木弁天の前を通り過ぎて、広漠たる福砂通を歩いて行くと、やがて真直に仙台堀に沿うて、大横川の岸・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・砂村は今砂町と改称せられているが、むかしの事を思えば「砂村町」とでも言って置けばよかったのである。 わたくしは歩いている小道の名を知ろうと思って、物売る家の看板を見ながら行くと、長屋建の小家のつづく間には、ところどころ柱の太い茅葺屋根の・・・ 永井荷風 「元八まん」
・・・今ではさすがに解消して、住民は何所かへ散ってしまったけれども、おそらくやはり、何所かで秘密の集団生活を続けているにちがいない。その疑いない証拠として、現に彼らのオクラを見たという人があると。こうした人々の談話の中には、農民一流の頑迷さが主張・・・ 萩原朔太郎 「猫町」
・・・更には、存在の無意義さによって解消しつつある厚生省が、社会施設として、それぞれの地区の住民に欠くべからざる托児所、子供の遊場をこしらえる力さえなかったことに向って、警告が与えらるべきであったと思う。日本婦人協力会というような、戦争協力者の集・・・ 宮本百合子 「石を投ぐるもの」
・・・道を歩くにもすかしすかししなければ行かれないほどになってからは、自分でも驚くほど、甲斐性がなくなり、絶えず、眼の前に自分をおびやかす何物かが迫って居る様に感じだした。 物におどおどし、恥しいほど決断力も、奮発心も失せてしまった。 貧・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・婦人の政治参加の問題どころか、戦争に熱中した政府は戦争に対する人民の批判や疑問を封鎖するために、近衛首相を主唱者として、政党を解消させ、翼賛政治会というものにして、議会そのものの機能を奪った。婦人運動の各名流たちは、「精神総動員」に参加して・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・逡巡にもそれとしての理由があるし、又男のひとが、解消の方へと方向をかえてしまい、それで自分の心も思いのこすところなく落付けようとする或る意味の勇気のようなものも、現実の諸関係を見くらべれば分るところがある。けれども、人間の本心に立っての生き・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・ プロレタリア文学団体は、この年の二月解消の余儀なきに至ったが、『文化集団』、ナウカ社から発行されていた『文学評論』等は、相当の活気をもって、大衆の生活から湧き上る文学的要求を満たす力を有していた。当時の微妙な情勢は、従来のプロレタリア・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・の発展的解消を提唱し、創作方法のスローガンとして社会主義的リアリズムをかかげ、広汎に強力に、いきいきと、すべての作家よ、めいめいの実践をとおして「社会主義建設を描け」と云っているわけです。 以上の簡単な説明でも明らかなとおり、この「社会・・・ 宮本百合子 「社会主義リアリズムの問題について」
出典:青空文庫