・・・ 繁昌らぬのも道理だ。家伝薬だというわけではなし、名前が通っているというわけでもなし、正直なところ効くか効かぬかわからぬような素人手製の丸薬を、裏長屋同然の場所で売っていて誰が買いに来るものか。 無論、お前もそのことは百も承知し・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・変数が長さ、時間、あるいはこれらの合成によりて得らるるものならば比較的簡単なれでも、例えば物体の温度、荷電等のごとき性質のものが与えられたりとせよ。もし物体の内部構造等に立ち入らざるマクロスコピックの見方よりすれば、これらの量は直ちに物体の・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・重力加速度に関する物理の方則は空気の抵抗や風の横圧や、偶然の荷電や、そんなものの影響はぬきにして、重力だけが作用する場合の規準的の場合を捕えて言明しているのである。そうしてまた、加速度の数値を五けた六けたまでも詳しく云為する場合には、実測加・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・というのをおろしてくれたのが近所の国語の先生の奥さんであった。家伝の名灸でその秘密をこの年取った奥さんが伝えていたのである。なんでも紙撚だったか藁きれだったか忘れたが、それでからだのほうぼうの寸法を計って、それから割り出して灸穴をきめるので・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・特に荷電されたガスのイオンのようなものでも湿気が充分多くていわゆる過飽和度が高ければ、やはり凝縮を起す事が明らかになった。しかし実際の空気中ではそれほどの過飽和状態はないから、雲や霧の凝縮を起すものはそれよりも大きいものであろうと考えられる・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・これがこういう場合にお定まりであるようにいろいろに誤解され訛伝されている。今にも太陽系の平衡が破れでもするように、またりんごが地面から天上に向かって落下する事にでもなるように考える人もありそうである。そしてそれが近代人の伝統破壊を喜ぶ一種の・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・ その後、時々P教室の自分の部屋をたずねて来て、当時自分の研究していた地磁気の急激な変化と、B教授の研究していた大気上層における荷電粒子の運動との関係についていろいろ話し合ったのであったが、何度も会っているうちに、B教授のどことなくひど・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・同時にこれには一定量の荷電がある。荷電の存在は一体何によって知る事が出来るかというと、これと同様の物を近づけた時に相互間に作用する力で知られる。その力は間接に普通の機械力と比較する事が出来るものである。既に力を及ぼす以上これは仕事をする能が・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・天体の影響などは云うに足らぬし、普通の場合ならば電気や磁気の影響は小さいであろうが、しかしもし不注意にも鉄の振子を強い磁石の傍で振らせたり、あるいは軽い振子の場合に箱のガラスが荷電していたりしては決して正しい結果は得られるはずはない。箱の中・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・ペンに微量の荷電があれば、あるいは自身にはなくても他に荷電体があれば、その感応によって周囲の物との間に引斥力が起る。また地球磁場等の影響はこれに偶力を及ぼす事になる。その磁場は諸天体にも感応し反対に諸天体の磁場もまたこれに影響する。仮りに周・・・ 寺田寅彦 「方則について」
出典:青空文庫