・・・ その一寸した感想も、なかなか女の仕事や生活に対する一般の態度の機微にふれている。女のひとの感情がそんな風に動く原因はどこに在るのだろう。 数ヵ月前にある婦人雑誌で職業婦人の月給調査を試みたことがあった。あらゆるところで女の給料はや・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・槇有恒氏の山についての本はどんなその間の機微を語っているか知らないけれど、岩波文庫のウィムパーの「アルプス登攀記」は印象にのこっている記録の一つである。岩波新書に辻村太郎氏の執筆されている「山」がある。 極地探検の記録も人類の到達した科・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・よく世間で、なかなかやるが結局お嬢さん芸でね、奥さん芸でね、という批評を、殿様芸に並べていうのは、ここのところの機微にふれていると思います。 では、お嬢さん芸でない技術、奥さん芸でない技術をそれぞれの仕事において女がつけて行くことが、今・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・ 紹介者諸氏の驥尾に附して当時シェストフと不安の文学という流行語を口にしない文学愛好者はないようであったが、遂にこの流行は不安に関する修辞学に終った。そして、文学の実際は他の一方で皮肉な容貌を呈して動いた。 明治文学の再評価の機運が・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・その諦観にふさわしく統一された芸の巧さがあるにしても、若い作家たちまでがその驥尾に附して各自の芸術の行手にそれを仰ぐとすれば、それは奇怪と云わなければなるまい。当時の文学の混乱もこの頃云わば底をついた形となって、漸々観念的な不安に停滞するこ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 大宅氏は、嘗てのプロレタリア評論家たちが、この問題を自身の問題として真面目にとりあげず、転向謳歌者の驥尾に附している態度を慨歎している。杉山氏は硬骨に、そういう態度に対する軽蔑をその文章の中で示しているのである。 プロレタリア文学・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・ナチスがヒットラーの性格異常者的な独裁力によって国民に犠牲を払わせ、いわゆる電撃的侵略を開始し、イタリーもその驥尾に附した。平和に対する世界の努力を、暴力的に破壊させる切掛を合図し合うための同盟を結んだ三国は、西に東に兇暴な力を揮い始めた。・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・やはり少し馬鹿にする気味で、好意を表していてくれる人と、冷澹に構わずに置いてくれる人とがあるばかりである。 それに文壇では折々退治られる。 木村はただ人が構わずに置いてくれれば好いと思う。構わずにというが、著作だけはさせて貰いたい。・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・ 笑う声が薄気味わるく夜の灯火の底でゆらめいていた。五百万人の狂人の群れが、あるいは今一斉にこうして笑っているのかしれない。尋常ではない声だった。「あははははは……」 長く尾をひくこの笑い声を、梶は自分もしばらく胸中にえがいてみ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・それに感情が鋭敏過ぎて、気味の悪いような、自分と懸け離れているような所がある。それだから向うへ着いて幾日かの間は面倒な事もあろうし、気の立つような事もあろうし、面白くないことだろうと、気苦労に思っている。そのくせ弟の身の上は、心から可哀相で・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
出典:青空文庫