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・・・ゆるい呼吸の起伏をつづけている臍の周囲のうすい脂肪に、鈍く電灯の光が射していた。蒲団で栖方の顔が隠れているので、首なしのようにみえる若い胴の上からその臍が、「僕、死ぬのが何んだか恐くなりました。」と梶に呟くふうだった。梶は栖方の臍も見た・・・
横光利一
「微笑」
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・・・ことにその表面が、芝生のように刈りそろえて平面になっているのではなく、自然に生えそろって、おのずから微妙な起伏を持っているところに、何ともいえぬ美しさがある。従ってそういう庭は、杉苔の生えるにまかせておけば自然にできあがってくる道理である。・・・
和辻哲郎
「京の四季」