・・・ 嘘偽でかためた報道、虚構の現実ばかりを知らされ、今日はそれが虚構であった、ということだけを又手おくれに知らされて経済破局に面している日本の人々が、己れの幻滅につながるものとして、この真実のよりどころを殺戮されて還って来た兵士の精神の苦・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・「文学の虚構の真実」にしろ、「芸術至上主義の現代的悲劇」にしろ、「現代の創作方法論」にしろ、いずれもそれが云える。 文学において、創作の方法というものは、何とまざまざとその作家の社会的で芸術的な生きかた全幅を示すものであろうかということ・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・何とかいう十九歳の百万長者の息子とこれも同様な大金持の十六歳の娘とがニューヨークで盛大極る結婚式を挙行してセンセーションを捲き起したというのである。愛すこと、結婚生活を営みたく思う心、そして父母とならんとする希望は、然しながら、百万長者の子・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・川口検事が立って、検察側はだんじて拷問、人権蹂躙を行っていない。虚構誇大、事実をまげて検事裁判官、裁判所を誹謗し、演説会で宣伝する。これは侮辱、名誉毀損、恐喝、恐迫等の犯罪を構成する。適当な機会に断固たる処置をとりたい。数十名の弁護人ならび・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・つねに存在の最上級に居り、永遠に醒めている、互に誤解することさえない СССРが何故Dの作品を出版しないか その理由は、彼の芸術におけるこの危険にとんだ二重性による おどろくべき迫真力と虚構との。 それこそドストイェフスキー・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・バルザックの人物を典型的という名でよぶ習慣が、いつか文学の世界に入って来ているが、私たち人間そのものの動きに立って、バルザックの文学における虚構の真実をふわけするならば、彼の人物たちは、典型というよりも寧ろ原型にちかい。 利慾、狡猾、打・・・ 宮本百合子 「バルザックについてのノート」
・・・大嘗会というのは、貞享四年に東山天皇の盛儀があってから、桂屋太郎兵衛の事を書いた高札の立った元文三年十一月二十三日の直前、同じ月の十九日に五十一年目に、桜町天皇が挙行したもうまで、中絶していたのである。・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫