・・・ それから四人丸く坐って祇園のまつりのはなしや、加茂の夕涼やまだ見た事のない京都の様子を御まきさんにはなしてもらった。 その間御せんさんはおっかさんの体にもたれかかってその眉のあたりを見ながらはなしをきいて居る。 御はんの時も御・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・夜のはなやかな祇園のそばに家があったんで夜がかなり更けるまでなまめいた女の声、太鼓や三味の響が聞えて居る中でまるで極楽にでも行く様な気持で音の中につつまれて眠りについたのは私には忘られないほどうれしい、気持のいいねつき様であった。大きなリボ・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・王子は四歳まで育って、母后の兄である祇園精舎の聖人の手に渡り、七歳の時大王の前に連れ出されて、一切の経過を明らかにした。大王は即日太子に位を譲った。新王は十五歳の時に、大王と聖人とを伴なって、女人の恐ろしい国を避け、飛車で日本国の熊野に飛ん・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・それはちょうど祇園祭りのころで、昔は京都の市民が祭りの一週間とその前後とで半月以上にわたって経済的活動を停止した時期である。 しかしこの静止状態が続くのは、せいぜい三週間であって、一個月にはならなかったと思う。土用の末ごろにはもう東山の・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・京都の祇園祭りの鋒の山車の引き方はその幽かな遺習であるかもしれない。大阪城の巨石のごときは何百人何千人の力を一つの気合いに合わせなくては一尺を動かすこともできなかったであろう。それでもまだどうして動かせたか見当のつかないほどの巨石がある。そ・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫