・・・と親仁は月下に小船を操る。 諸君が随処、淡路島通う千鳥の恋の辻占というのを聞かるる時、七兵衛の船は石碑のある処へ懸った。 いかなる人がこういう時、この声を聞くのであるか? ここに適例がある、富岡門前町のかのお縫が、世話をしたというか・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・この種の読物こそ、階級闘争の種子を蒔き、その激化を将来に誘発する因となるものです。 すべて、人間は、良心ある生活を送らなければならぬ。そして正直に生きなければならぬ。また、愛し扶け合わなければならぬし、正義のためには自己を犠牲にして戦わ・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・いずれが誘うともなく二人ならんで廟の廊下から出て月下の湖畔を逍遥しながら、「父母在せば遠く遊ばず、遊ぶに必ず方有り、というからねえ。」魚容は、もっともらしい顔をして、れいの如くその学徳の片鱗を示した。「何をおっしゃるの。あなたには、お父・・・ 太宰治 「竹青」
・・・ 第三場舞台は、月下の海浜。砂浜に漁船が三艘あげられている。そのあたりに、一むらがりの枯れた葦が立っている。背景は、青森湾。舞台とまる。一陣の風が吹いて、漁船のあたりからおびただしく春の枯葉舞・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・ここでも月下の新畳と視感ないし触感的な立場から見て油との連想的関係があるかないかという問題も起こし得られなくはない。これはあまり明瞭でないが「かますご食えば風かおる」の次に「蛭の口処をかきて気味よき」の来るのなどは、感官的連想からの説明が容・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・並ぶ轡の間から鼻嵐が立って、二つの甲が、月下に躍る細鱗の如く秋の日を射返す。「飛ばせ」とシーワルドが踵を半ば馬の太腹に蹴込む。二人の頭の上に長く挿したる真白な毛が烈しく風を受けて、振り落さるるまでに靡く。夜鴉の城壁を斜めに見て、小高き丘に飛・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・ 昨今のように、一般の社会状勢が息苦しく切迫し、階級対立が最も陰性な形で激化しているような時期に、鬱屈させられている日常生活のせめてもの明るい窓として、溌剌として、新しい恋愛がどことなし人々の心に翹望されていることは感じられる。しかも、・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 世界の階級闘争がひろい文化戦線にわたって激化されるようになってから、敵の陣営=ブルジョアを攻撃し、笑殺する武器としてのプロレタリア諷刺は、弁証法的な形で扱われるようになって来た。 対手の悪と醜とを暴露し、やっつけるぎりの消極的諷刺・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・手紙の筆者である僕というプロレタリア作家は、闘争の激化した現段階で帝国主義日本の革命的勤労大衆の前衛に課せられている任務は、広汎で具体的な帝国主義戦争反対の闘いであり、帝国主義戦争によって生じるあらゆる矛盾のモメントを内国的にはプロレタリア・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ プロレタリア・農民の階級闘争の激化は現実の必要から婦人大衆をも目ざませた。男の働きての失業のため、婦人は最悪の労働条件と闘いながら企業へ参加している。そこで婦人たちも、めきめき自身の階級としての力、団結の威力を学びとっている。手拭を姉・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
出典:青空文庫