大気中の水蒸気が凍結して液体または固体となって地上に降るものを総称して降水と言う。その中でも水蒸気が地上の物体に接触して生ずる露と霜と木花と、氷点下に過冷却された霧の滴が地物に触れて生ずる樹氷または「花ボロ」を除けば、あと・・・ 寺田寅彦 「凍雨と雨氷」
・・・こういうふうに考えてみると、書物という商品は、岐阜提灯や絹ハンケチや香水や白粉のようなものと同じ部類に属する商品であるように思われて来るのである。 毎朝起きて顔を洗ってから新聞を見る。まず第一ページにおいてわれわれの目に大きく写るものが・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・西洋でも花瓶に花卉を盛りバルコンにゼラニウムを並べ食堂に常緑樹を置くが、しかし、それは主として色のマッスとしてであり、あるいは天然の香水びんとしてであるように見える。「枝ぶり」などという言葉もおそらく西洋の国語には訳せない言葉であろう。どん・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・地形の複雑さに支配される気温降水分布の複雑さは峠一つを隔ててそこに呉越の差を生じるのである。この環境の変化に応ずる風俗人情の差異の多様性もまたおそらく世界に類を見ないであろう。一つは過去の封建制度によってこれが強調されたということは許容して・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・「十円もする香水なんか奥さんに貰ってきたんですて」「少し吹いてやしない」道太は苦笑した。「そう、少し喇叭の方かもしれん」「家のやつも人を悦ばせるのは嫌いな方じゃないけれど」「庄ちゃんが讃めていたから、いい人でしょうね。け・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・薔薇の中から香水を取って、香水のうちに薔薇があると云ったような論鋒と思います。私の考えでは薔薇のなかに香水があると云った方が適当と思います。もっともこの時間及びあとから御話をする空間と云うのは大分むずかしい問題で、哲学者に云わせると大変やか・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・オオビュルナンはマドレエヌの昔使っていた香水の匂い、それから手箱の蓋を取って何やら出したこと、それからその時の室内の午後の空気を思い出した。この記念があんまりはっきりしているので、三十三歳の世慣れ切った小説家の胸が、たしかに高等学校時代の青・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ 早くあなたの頭に瓶の中の香水をよく振りかけてください。」 そして戸の前には金ピカの香水の瓶が置いてありました。 二人はその香水を、頭へぱちゃぱちゃ振りかけました。 ところがその香水は、どうも酢のような匂がするのでした。・・・ 宮沢賢治 「注文の多い料理店」
・・・私のとこのアーティストは、私の頭に、金口の瓶から香水をかけながら答えました。 それからアーティストは、私の顔をも一度よく拭って、それから戸口の方をふり向いて、「ちょっと見て呉れ。」と云いました。アーティストたちは、あるいは戸口に立ち・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・今度は三十カペイキの鉱水ナルザンが一瓶あって、この価だ。おまけに、スープに肉が入っている! 正餐をやすくしてみんなが食べられるようにし、夕食は一品ずつの注文で高くしたのはソヴェトらしく合理的だ。 Yはヴャトカへ着いたら名物の煙草いれを買・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
出典:青空文庫