・・・仙二の家の納屋をなおした小屋に沢や婆は十五年以上暮していた。一月の三分の二はよその屋根の下で眠って来た。夏が去りがけの時、沢や婆さんは腸工合を悪くして寝ついた。何年にもない事であった。一日二日放って置いた仙二夫婦も、四日目には知らない顔を仕・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・ 小姓は静かに相役の胸の上にまたがって止めを刺して、乙名の小屋へ行って仔細を話した。「即座に死ぬるはずでござりましたが、ご不審もあろうかと存じまして」と、肌を脱いで切腹しようとした。乙名が「まず待て」と言って権右衛門に告げた。権右衛門は・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 一 町なかの公園に道化方の出て勤める小屋があって、そこに妙な男がいた。名をツァウォツキイと云った。ツァウォツキイはえらい喧嘩坊で、誰をでも相手に喧嘩をする。人を打つ。どうかすると小刀で衝く。窃盗をする。詐偽をする。・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・数羽の鶏の群れが藁小屋を廻って、梨の木の下から一羽ずつ静に彼の方へ寄って来た。「好えチャボや。」と安次は呟いて鶏の群れを眺めていた。 お霜は遅れた一羽の鶏を片足で追いつつ大根を抱えて藁小屋の裏から現れた。「また来たんか?」「・・・ 横光利一 「南北」
・・・そこを散歩して、己は小さい丘の上に、樅の木で囲まれた低い小屋のあるのを発見した。木立が、何か秘密を掩い蔽すような工合に小屋に迫っている。木の枝を押し分けると、赤い窓帷を掛けた窓硝子が見える。 家の棟に烏が一羽止まっている。馴らしてあるも・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
出典:青空文庫