・・・ 作為なく、詐りなくして、表現されたものが、即ちその人の真の文章であります。しかしながら、たとえ作為を用いても、また、詐ろうとしても、そうした文章には、自然なところがないから、ほんとうのものでないということが分るものです。 自分をい・・・ 小川未明 「読むうちに思ったこと」
・・・たとい有ったにしても、何とでも作意を用いて、失敗の痕を無くすことが出来る。時刻が相応に移る。いかに物好な殿にせよ長くご覧になっておらるる間には退屈する。そこで鱗なら鱗、毛なら毛を彫って、同じような刀法を繰返す頃になって、殿にご休息をなさるよ・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・なんの作意も無い。私は立ちどまって、なお、よく見ていたい誘惑を感じたが、自分の、だらしない感傷を恥ずかしく思い、その光るばかりの緑のトンネルを、ちらと見たばかりで、流れに沿うて土堤の上を、のろのろ歩きつづけた。だんだん歩調が早くなる。流れが・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・なぜこれほどおもしろいのかよくわからないがただどちらもあらゆる創作の中で最も作為の跡の少ないものであって、こだわりのない叙述の奥に隠れた純真なものがあらゆる批判や估価を超越して直接に人を動かすのではないかと思う。そしてそれは死生の境に出入す・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・ 花袋君は六年前にカッツェンステッヒを翻訳せられて、翻訳の当時は非常に感服せられたが、今日から見ると、作為の痕迹ばかりで、全篇作者の拵えものに過ぎないと貶せられた。褒貶は固より花袋君の自由である。しかし今日より六年後に、小生の趣味が現今・・・ 夏目漱石 「田山花袋君に答う」
・・・どんな虚構、どんな作為のファンタジーにしても、それが文学として実在し、読者の心に実在感をもってうけいれられるためには、力をつくして、そのファンタジーや、ディフォーメーションにそのものとしての現実性を与えることに努力しているのである。〔一・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・は、軍事上の理由から問題となったが、作品の実際で文学の問題となり得たとすれば、それは現実と、その現実が強引に背負わせられている観念のままの観念との結びつけかたの作為性への批判においてであったろう。 作者がこの作品に対して野心的な態度をも・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・そのような事情がめぐって来たとき一時に二人の男女を愛することに虚偽も作為もなかった。子供らが、何人かの友達をもち、その一人一人と心をこめ、興をつくしてたわむれる。なかでは特別にすきな相手もある。男女の恋愛も太古はそれに似たあどけなさ、動物に・・・ 宮本百合子 「貞操について」
・・・六月下旬に検事が来たとき私の調べの事情をはなし、自分が全く作為的な調書をとられていること、もし公判になれば、自分はそれをひるがえすということを話した。検事はそういう調べについて困ったことだといったまま帰った。七月二十日すぎ、その年の例外的な・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・主観と対象の刹那の結合で俳諧は出来るべきもので、つくるべきものではないとしたが、それは作為を拒んだので、一句一句そのものとしての世界が客観的に確立すべきことは目ざされていた。一つの句は一つだけ、自身のマンネリズムで作るなということもきびしい・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫