・・・スズメノエンドウ、スズメウリ、スズメノヒエ、姫百合、姫萩、姫紫苑、姫菊のろうたけた称に対して、スズメの名のつく一列の雑草の中に、このごんごんごまを、私はひそかに「スズメの蝋燭」と称して、内々贔屓でいる。 分けて、盂蘭盆のその月は、墓詣の・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・菊はまだ咲かないか、そんなら紫苑でも切ってくれよ」 本人達は何の気なしであるのに、人がかれこれ云うのでかえって無邪気でいられない様にしてしまう。僕は母の小言も一日しか覚えていない。二三日たって民さんはなぜ近頃は来ないのか知らんと思った位・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・芒の蓬々たるあれば萩の道に溢れんとする、さては芙蓉の白き紅なる、紫苑、女郎花、藤袴、釣鐘花、虎の尾、鶏頭、鳳仙花、水引の花さま/″\に咲き乱れて、径その間に通じ、道傍に何々塚の立つなどあり。中に細長き池あり。荷葉半ば枯れなんとして見る影もな・・・ 寺田寅彦 「半日ある記」
・・・〔欄外に〕 尾花、紫苑。日が沈んで夕方暗くなる一時前の優婉さ、うき立つ秋草の色。 工場の女と犬 十月雨の日 女工「マル マル マルや 来い来い お前を入れて置きたいのは山々だけれどもね、土屋さ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
紫苑が咲き乱れている。 小逕の方へ日傘をさしかけ人目を遮りながら、若い女が雁来紅を根気よく写生していた。十月の日光が、乾いた木の葉と秋草の香を仄かにまきちらす。土は黒くつめたい。百花園の床几。 大東屋の彼方の端・・・ 宮本百合子 「百花園」
出典:青空文庫