・・・は、ケーテ・コルヴィッツの代表的な大作であるばかりでなく、彼女の複雑な資質をそのすみずみまで示している作品として、歴史的な価値をもっている。 ケーテが、ベルリンの自由劇場に上演されたハウプトマンの「織匠」を観たのは一八九三年二月のことで・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・そして、そのような互の資質は、その時になって急に見出されるものでも、つくりあげられるものでないことは明らかである。 それにまた、このように産め、殖やすことの要求されている時代であるからこそ、その一面には、今日までの優生夫妻が、いつ、どこ・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・ 子供のために書かれる文学が、文学の全体からみるとその作者の文学的資質のただ一般的な低さとか弱さとかいうような関係であらわれるとすれば、それはその国の文化として悲しいし、愧しいことだと思う。ある女性が詩人であるということと、作家であると・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・美術界の気むずかし屋、美術家連が癪にさわりながらその一言一言を気にかけずにいられない批評家のジョーゼフ・ハートさえ、彼女の作品の将来性と優れた資質とをみとめた。 今やソーニャを失って仕事への気力も欠いているブレークは、スーザンのその成功・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・横光氏が近代人の資質としている自意識というものが常に人間をその内外に引さく作用をするとすれば、ロマンチシズムが世界の帝国主義時代の廃頽の中にあって益々その危険をつよめている。欲するがままに行為せんとする力はもたず、ロマンチストと我から称する・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・今日の社会の事情は尋常を脱していて、女に求められている力も、女の資質一般ではなく、銃後の力としての女の力である。そして、それは千人針からはじまって、すでに特殊な生産部門に男と代って働く女の力、あるいは複雑な日本の経済条件の日々の負担者として・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・作家の資質のよさわるさ、大きさ小ささ、それなりにその人を見ると何かわかるところがある。作品のすきさもわかった気がし、きらいがあるとすれば、それも成程と肯けるものが必ずある。そして、これは決して、文学の専門的な何かを前提とするものではなくて、・・・ 宮本百合子 「作品の血脈」
・・・それは、時代の動きの他の極に立つものであったから、母としては彼女の資質の大きさ、感情の独自のあるがままの理解よりも却って狭く作られた精神の境涯に自分を留めたことになって、そこからつくられた苦しみを苦しんだという形ともなった。母のために、それ・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・、その社会的な生活感情を等しくして結ばれていたが、その他の面では云わば各人各様で、或る作家は芸術至上を説き、或る作家は科学・機械文明との新しい結合で文学を見ようとし、或る人は新心理派へ眼を向け、作家の資質に従ってエロティシズム、グロテスクな・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ あれやこれやの理由から、孝子夫人の資質を貫く熱い力は、よりひろくひろくと導かれ得ないで、日常身辺のことごとと対人関係の中で敏感にされ、絶えず刺戟され、些事にも渾心を傾けるということにもなったのではなかったろうか。 二昔ほど以前の生・・・ 宮本百合子 「白藤」
出典:青空文庫