・・・イタリー大使館かどこかの好意による特別試写会で、それを見た。そして「脱出」という字は深く心に刻みこまれたのだった。「日本脱出」は、考えてみれば、白鳥のなぐさみにつけられた題ばかりでなく、日本のきょうの文学に、むしろ、文学の若いジェネレー・・・ 宮本百合子 「「下じき」の問題」
先月、日比谷映画劇場で、国際観光局が海外宣伝映画試写会をもよおした。「富士山」と「日本の女性」という二つの作品で、其映画のはじまる前に、映画製作に直接関係した課の長にあたる人の挨拶があった。これまでの日本の映画音楽がよくな・・・ 宮本百合子 「実感への求め」
・・・美辞麗句の哀悼の詞より、死者を瞑せしめるのは、偽りないその点への科学的な追究の態度であったろうと思う。 この感想を私は或る新聞の短文にかいたら、あの飛行機は台湾のなかだけ翔んでいるので云々と云ってかえして来た。これも妙だと思われる。私た・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・肉体においては生存していても、歴史の進む方向を判断する精神において既に死んでいる者が、死して死なざる生命に甦らされて今日物を云うという場合、死者に甦らされた生者として語るべき唯一のことは、真実あるのみである。信義ある言葉のみが語るべき言葉で・・・ 宮本百合子 「信義について」
時 神の第十瞬期処 天の第二級天の上神 ヴィンダーブラ ミーダ カラ イオイナ その他 此等の神々の使者数多。天の第二級雲の上にある宮。もくもくした灰色又は白の積雲・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・「裸者と死者」で達せられなかった「法の威力」をしめそうとする目的に立っていることがあまり明白のように思われます。五、権力は、さまざまの形で、威力を発揮しようとして来たことは、一昨年春ごろやかましかった猥雑なエログロ雑誌取締の時のプロセス・・・ 宮本百合子 「「チャタレー夫人の恋人」の起訴につよく抗議する」
・・・とあらそって居る骸骨の死の使者がガタガタと笑って居た。 単純な頭で死と云う事を最も深く恐れて居る男はびっくりしてひっかえした。「何出世の出来ねえのは御やたちが生み様が悪れえんだ。ただ食ってさえ居ればいいのよ」 そう思って・・・ 宮本百合子 「どんづまり」
・・・ 伊豆地方の大震災 惨たる各地の被害 震源地は丹那盆地 死者二百三十二名 伊豆震災救済策 震災地方の納税減免 国庫負担法で業務教育費交付 両腕の動かしかたに共通の一種独特の職業的癖をもっている日本の列車ボーイ・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・ したがのう、わしは三日前に使者の身なりと料紙だけはまことに見事な手紙をうけとったのじゃ。法 中実は?王 まことにはや年寄った女子の背むしなのより見にくいものでの。 小姓に申しつけて直ぐ裂いてしまって燃してしもうたほどじ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・「――私はお使者なんだから、それは云いますけどね」「来てさえくれりゃあ、本当にわかるんですから……」 女は帯の間から桜紙をとり出し、それを唇でとって洟をかんでから、銀杏返しの両鬢をぐっと掻き上げた頸筋にだけ白粉の残っている横顔を・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫