・・・そうして、首を切られた後にも、その胴体と四肢とは少しも傷つくことなく、双の乳房をもって太子を哺んだ。この后の苦難と、首なき母親の哺育ということが、この物語のヤマなのである。王子は四歳まで育って、母后の兄である祇園精舎の聖人の手に渡り、七歳の・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・例えば中岡良一を賞讃して、彼はまことに国士であった、志士であった、というようなことを言い出さぬとも限らぬ。それは暗殺の煽動である。巡査が来て彼を過激思想宣伝者、直接行動煽動者として警視庁へひっぱって行く。 どうもこれでは困る。それよりも・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・このことは四肢の無雑作な取り扱い方によく現われている。両足は無視されるのが通例であり、両腕も、この人物が何かを持っているとか、あるいは踊っているのだとか、ということを示すためだけに付けられるのであって、肩や腕を写実的に表現しようなどという意・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
・・・我々は四肢胴体が欠けているなどということを全然感じないで、そこにその人全体を見るのである。しかるに顔を切り離したトルソーになると、我々はそこに美しい自然の表現を見いだすのであって、決して「人」の表現を見はしない。もっとも芸術家が初めからこの・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫