・・・名目は、腕力のあるペン・マンによって、盛り場のゴロツキを征圧しようというのであったが、このことは、今日らしい戦後風景としては笑殺されなかった。すぐ新聞に、それに対する批判があらわれた。そしてそれは当然そうあるべきことであった。一九四六年、日・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・ 世界の階級闘争がひろい文化戦線にわたって激化されるようになってから、敵の陣営=ブルジョアを攻撃し、笑殺する武器としてのプロレタリア諷刺は、弁証法的な形で扱われるようになって来た。 対手の悪と醜とを暴露し、やっつけるぎりの消極的諷刺・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・云々と一方的にだけいっていて、そのような婦人が存在する社会の他の現実関係として、当時の男性が婦人に対して持っていた習俗なり態度なりについては、男自身のこととしてまるで省察の内にとりあげていないのは興味があるところではなかろうか。婦人の知って・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・芸術家としての鴎外が興津彌五右衛門の境地にのみとどまり得ないで、一年ののちには更に社会的に、その社会を客観する意味で歴史的に、殉死というテーマをくりかえし発展させて省察している点は、後代からも関心をもって観察せられるべきであろうと思う。・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・た笑いであるというよりは、現実社会の腐敗や停滞、偽瞞を裏まで見とおしている社会生活への鋭い洞察者が、その明るくてかげのない実践的な生活態度と遠大な見とおしに立って、周囲の虚偽卑劣を描きつつ、おのずから笑殺することで、社会的批判を表現している・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・そして、彼女たちは課せられている義務が女にとってどんな苦しいものか或は重圧か、ということには省察を向けなかった。 今日、私たちが、責任を知るというとき、しろと云われたことは何でもやる、死んだ思いでするという判断のない服従からの行為を意味・・・ 宮本百合子 「女の歴史」
・・・ 厳粛な一つのこととして、真剣に成って省察せずにはいられない程、一面からいえば、愛に対する自信が薄弱なのです。 私の全心にとって、今、良人の死を予想することは、一つの恐ろしい空虚を想うことです。激しい困惑や擾乱を内的に予期せずにはい・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・りきたりな概括にまで思い及んだのであるが、今度は立場を逆にして、画家はどの程度にまで自分の絵を鑑賞しようとする人々の生理的な条件――その疲労とか休安とかの実状を考慮に入れているであろうかと、こと新たな省察を深められた。 勤労階級の生活感・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・とジイドの文句が引かれていても、主人公の男がいい家庭と云い、その建設のために妻を教育し扶けようとするという、その実質について全然人間生活という見地からの省察が向けられていない時、読者はどこに作者の魂の価値たるより激しき燃焼を見出すことが可能・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・主人公の僚友に対する責任感が、自身患者であるその人個人の安静の犠牲によって果されるしかないという療養所内の現実が、もっと読者に省察させるモメントとし、とらえられてよかった。 「縫い音」 関としを 「やもめ倶楽部」 赤城・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
出典:青空文庫