・・・ あの人は、なかなかうまい事考え居る。 証書を反古にするつもりで年限などを忘れさせる様にしとるんや。 東京の方へも云うてやって、委任状もろうて、証書の書き換えをさせんならん。 なあ栄蔵はん、 この村も、金臭くなって仕舞う・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 価値のあらゆる証書、すなわち称号、権力、金というような目に見える財は、バルザックの場合のように目的としても またドイツ人の場合のように手段としても、ともに彼らにとっては価値がないのである、p.176イギリス 英国流の小・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・ 字の画が散り散りばらばらになって意味をなさないのを、番頭に助けられながらそれが小作証書であるのを知ったときには、もう一層の絶望が彼の心を打った。 が、もう何ということもない。 二度も三度も間違えながら筆の先をつかえさせて名前を・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・そっくりの美男になって、今文尚書二十九篇で天下を治めようと言った才子の棟蔵である。惜しいことには、二十二になった年の夏、暴瀉で亡くなった。 中一年おいて、仲平夫婦は一時上邸の長屋に入っていて、番町袖振坂に転居した。その冬お佐代さんが三十・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫