・・・ああ、ここに先駆者がいた。私たちの、光栄ある悲壮の先駆者がいたのだ。以下はそのお便りの全文である。 前略。その後は如何。老生ちかごろ白氏の所謂、間事を営み自ら笑うの心境に有之候。先日おいでの折、男子の面目は在武術と説き、諸卿の素直なる御・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・この言葉のもてはやされる以前に米のグリフィスや仏のガンスなどの実行したいろいろの独創的な効果的手法は畢竟モンタージュの先駆的実例を提供するものである。 しかしこの言葉の内容が細かに分析されるようになり、「併行モンタージュ」「比喩モンター・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・この発声映画は上記のような意味において私に発声映画というものの一つの可能性を教えてくれたものである。この先駆者の道を追って行けば日本語トーキーで世界的なものを作ることも不可能ではない。「ノン」の代わりに「いや」を插入し「ヴーザレヴォアル」の・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ しかしまた、現在映画の世界にのみ存する事象が将来現世界に可能とならないという証拠もないとすると、現在の映画の夢は将来の現実の実相を導き出す先駆となり前兆とならないとも限らない。ここに重大な問題の骨子があるような気がするのである。これは・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・そうしてある意味で活動映画の先駆者と見なしてもよいものである。実在の三次元の空間の一次元を割愛してただ二次元の断面に限定する代わりに、第四次元たる時間を一次元空間に投射することによって時間の経過をわれわれの任意に支配するという考えは両者に共・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ピンヘッドとかサンライズとか、その後にはまたサンライトというような香料入りの両切紙巻が流行し出して今のバットやチェリーの先駆者となった。そのうちのどれだっかた東京の名妓の写真が一枚ずつ紙函に入れてあって、ぽん太とかおつまとかいう名前が田舎の・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・蘭学の先駆者たちがたった一語の意味を判読し発見するまでに費やした辛苦とそれを発見したときの愉悦とは今から見れば滑稽にも見えるであろうが、また一面には実にうらやましい三昧の境地でもあった。それに比べて、求める心のないうちから嘴を引き明けて英語・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・また昔レーリー卿が紅茶茶わんをガラス板の上ですべらせてみて、ガラスのよごれ方でひどく摩擦のちがうことを見て考え込んでいたことがあるが、これは近年になって固体や液体の表層に吸着した単分子層の研究の先駆をなしたものであった。これと似寄ったことで・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・また或日の夕方には、大声に泣きながら歩く女の列を先駆にした葬式の行列に出遇って、その奇異なる風俗に眼を見張った。張園の木の間に桂花を簪にした支那美人が幾輛となく馬車を走らせる光景。また、古びた徐園の廻廊に懸けられた聯句の書体。薄暗いその中庭・・・ 永井荷風 「十九の秋」
・・・体力脳力共に吾らよりも旺盛な西洋人が百年の歳月を費したものを、いかに先駆の困難を勘定に入れないにしたところでわずかその半に足らぬ歳月で明々地に通過し了るとしたならば吾人はこの驚くべき知識の収穫を誇り得ると同時に、一敗また起つ能わざるの神経衰・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
出典:青空文庫