・・・と現下の世相を……」語りに来たにしては、妙にソワソワと落ち着きがない。綿のはみ出た頭巾の端には「大阪府南河内郡林田村第十二組、楢橋廉吉A型、勤務先大阪府南河内郡林田村林田国民学校」と達筆だが、律義そうなその楷書の字が薄給で七人の家族を養って・・・ 織田作之助 「世相」
・・・デフォーははなはだ達筆で生涯に三百何部と云う書物をかきました。まあ車夫のような文章家なのです。 これで二家の文章の批評は了ります。この批評によって、我々の得た結論は何であるかと云うと、文芸に在って技巧は大切なものであると云う事であります・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・元海軍中将であるこの筆者は、その達筆な戦記のなかにきわめて効果的に自然に「しからばこのときどうすることがよかったか。結果論のようではあるが私は戦闘機なしでも出すべきであったと思う」と、さながら戦況の不利を目の前に見ているように「何という無念・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・非常に達筆に描き出している。そういう環境の中でやりとりされる言葉が生活そのもののむき出しであると同様むき出しである、それが反映した迫力をもっている。けれどもこれ迄の彼女が何も読まなかったということは、これからの彼女がずっとそうであって大変結・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
出典:青空文庫