・・・ 都に上った厨子王は、僧形になっているので、東山の清水寺に泊った。 籠堂に寝て、あくる朝目がさめると、直衣に烏帽子を着て指貫をはいた老人が、枕もとに立っていて言った。「お前は誰の子じゃ。何か大切な物を持っているなら、どうぞおれに見せ・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・落合君はもうその前から東山のマラリヤの蚊にやられていたのである。この谷川君の英断にも私は心から感謝した。あのすばらしい蓮の花の光景のことを思うと、マラリヤの蚊などは何でもない。また夜明け前後のあの時刻には、蚊はあまりいなかったように思う。・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
・・・樹の葉の色の相違などは、たぶんそこに起因するものであろう。東山や嵐山などを包んでいる樹木の種類は非常に多いのであるが、そういう多種類の樹木の一々が、非常に具合のいい湿気に恵まれて、その樹木に特有な葉の色を、最も純粋に発揮しているのかもしれな・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
出典:青空文庫