・・・ なぜ夜海水浴をするのか問おうかと思ったが止めた。多分昼間は隙がないのだろう。「冬になるとお前さんどこへ行くかね。コッペンハアゲンだろうね。」「いいえ。ここにいます。」「ここにいるのだって。この別荘造りの下宿にかね。」「・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・そこへ腰を落ち着けて、途中で止めた眠を続けようと思うのである。やっと探り寄ってそこへ掛けようと思う時、丁度外を誰かが硝子提灯を持って通った。火影がちらと映って、自分の掛けようとしている所に、一人の男の寝ている髯面が見えた。フィンクは吃驚して・・・ 著:リルケライネル・マリア 訳:森鴎外 「白」
・・・それどころか、応永、永享というごとき年号を、記憶に留めるほどの刺激を受けたこともなかった。連歌の名匠心敬に右のごとき言葉があることを知ったのも、老年になってからである。しかし心敬のあげた証拠だけを見ても、この時代が延喜時代に劣るとは考えられ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫