・・・もちろん髪の毛は大ぶ薄くなって、顔のそこここに皺が出来たが、その填合せにはあの時のようにはにかみはしない。それから立居振舞も気が利いていて、風采も都人士めいている。「それに第一流の大家と来ている」と、オオビュルナンは口の内で詞に出して己を嘲・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・は、人間の善意が、次第に個人環境のはにかみと孤立と自己撞着から解きはなされて現代史のプログラムに近づいてゆく、その発端の物語としてあらわれる。 一九四九年六月〔一九四九年七月〕・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・勇吉が清二が留守になってから、どうも始めて清二の嫁はまだ十八の若い、はにかみやの可愛い女であったことをしみじみ見出したらしい様子がおしまに分った。おしまは、時々きいという名のその嫁をひどくしかるように成った。すると、勇吉は、炉ばたでちびちび・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・それにもかかわらず、自分の詠まれた短歌、その他については、はにかみ深くて、決してひとに示したり、そういう話題を選ぶことをされなかった。 古田中正彦氏は、文学への愛好が深く、やはり短歌に蘊蓄が浅くない上、著書も持って居られる。長女の峰子さ・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・け歯の音きくうすらさむき秋の暮方なげやりに 氷をかめば悲の湧く角砂糖のくずるゝ音をそときけば 若き心はうす笑する首人形遠き京なるおもちや屋の 店より我にとつぎ出しかなはにかみてうす笑する我よめは 孔雀・・・ 宮本百合子 「短歌習作」
・・・ どこへ来ても、淑貞のはにかみがちな、しとやかさは同じであった。マダムたちが好意をもっておくりものなどをしてくれる。しかし、彼女は、時々「心乱れて、云い知れぬ淋しさを感ずることが」あった。淑貞はおとなしすぎてニューイングランドの若い青年・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 肇は始めて千世子を呼びかけた、そしてしずかなはにかみはにかみ子供の話する様にぽつんぽつんと、「私はそれじゃあ例外ですよ。 両親も可哀がって呉れたし、貧亡(ながらそんなにあくせくしないで居られる家庭に育ったんですけど、こ・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ ひそかに心のうちではにかみ笑いをしながら、彼女は今度もまた謝絶している禰宜様宮田を珍らしく穏やかな眼差しで眺めていた。 彼は相変らずのろい、丁寧な言葉で断わると、うるさいものと諦めていた番頭は思いがけず、じきに納得して帰ってくれた。・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・此処いらの一体の子供が、はにかみやのくせに悪口をつくから、何だか私にいい感じを与えない。 町の三つに分れる処にある床屋には、沢山若い百姓が集って居る。 極く極く質朴な処が若い百姓には少なくて、金のある時に町へ行って買いためたハンケチ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 礼儀正しく助手のひとが入って来て、自分の任務を果して出てゆくとき、ひろ子は、そのつど、ぼんやりしたはにかみを感じた。実験用テーブルの端におとなしくかたまって、たのしそうに、言葉すくなくいもの薄ぎれをやいている自分たち二人。それは、十月・・・ 宮本百合子 「風知草」
出典:青空文庫