・・・佐助の眼を突く心理を少しも書かずに、あの作を救おうという大望の前で、作者の顔はこの誤魔化しをどうすれば通り抜けられるかと一身に考えふけっているところが見えてくるのである。 佐藤春夫氏は極力作者に代って弁解されたが、あの氏の弁明は要するに・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・しかし人身売買はかなり気の咎める商売である。それには何か口実がなくてはならない。そこでニグロは半ば獣だということにされた。また Fetisch という概念がアフリカの宗教の象徴として発明された。呪物崇拝などということは全くのヨーロッパ製であ・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
・・・宮廷には千人の女御、七人の后が国王に侍していたが、右の女御はその中から選び出されて、みかどの寵愛を一身に集め、ついに太子を身ごもるに至った。そのゆえにまたこの女御は、后たち九百九十九人の憎悪を一身に集めた。あらゆる排斥運動や呪詛が女御の上に・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・ やがてデュウゼの一身には恐ろしい変化が来た。彼女はもはや情熱の城に立てこもろうとはしない。彼女は若い時の客気にまかせて情熱を使いすぎたのである。並みはずれた感激に対する熱情もようやく醒めて来た。ここにニイチェのいわゆる Die T・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫