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・・・ 爺さんは笛をぴいぴい吹いた。そうして輪の上を何遍も廻った。草鞋を爪立てるように、抜足をするように、手拭に遠慮をするように、廻った。怖そうにも見えた。面白そうにもあった。 やがて爺さんは笛をぴたりとやめた。そうして、肩に掛けた箱の口・・・
夏目漱石
「夢十夜」
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・・・ すると向うで、「北風ぴいぴい風三郎、西風どうどう又三郎」と細いいい声がしました。 狐の子の紺三郎がいかにもばかにしたように、口を尖らして云いました。「あれは鹿の子です。あいつは臆病ですからとてもこっちへ来そうにありません。・・・
宮沢賢治
「雪渡り」