・・・ 池の水草の白い花が夕もやの下りた池のうす紫の中にほっかり夢の様に見える様子や、泳ぎながらその花で体中を巻く時の美くしさや快さなんかも思った。 何がなしに仙二には夏の来るのがいつもより倍も倍も待遠かった。 毎日毎日若い仙二は夏の・・・ 宮本百合子 「グースベリーの熟れる頃」
・・・ 地球を七巻き巻くとかいう云いかたも執念めいた響きを添える。七巻きとか七巻き半とかいう表現は、仏教の七生までも云々という言葉とともに、あることがらを自分の目前から追い払ってもまだそれはおしまいになったわけではないぞよ、という脅嚇を含んで・・・ 宮本百合子 「幸運の手紙のよりどころ」
・・・自分たちの棲んでいる地球を天界の外から見た人はないのだから、そういう地球を七巻きまくと云えば、気味悪い脈々とした連続をも感じさせよう。 今度は幸運の手紙を貰った人が警察に届けたということもあったようである。そんな手紙を貰って、しんから薄・・・ 宮本百合子 「幸運の手紙のよりどころ」
・・・ 出征兵士の相当ある地方では、出征兵士の家族の若い婦人たちを茶話会、或いはその他の形であつめ、ブルジョアのバラまく戦争へのアジ、例えば桜井忠温の「銃剣は耕す」などという軍事通信の曝露をやり、次第にサークルへ組織して行くようなことも考えら・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・天気がよすぎて私の眼はまくまくで、一入ものがみえないけれど、起きたらお手紙が来ていたし、寿江子からもきていて、あの人も初雪と一緒にやっと峠を越して、同時に宿屋にオルガンのあるのをみつけてすっかり元気をとり戻し、「悪夢からさめたよう」だそうで・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・芸術は、小さい自分というホウセン花の実のようなものを歴史と社会とのよりつよい指さきでさわって、はぜさせて、善意と探求と成長の意欲を人間生活のなかにゆたかに撒くことでしかなかろうと思う。自分を突破して客観的真実に迫ってゆく歓喜が余り深くこまや・・・ 宮本百合子 「作品と生活のこと」
・・・ あゝ腐葉土のない土に種まく日本の女詩人よ自分自身が腐葉土になるしかない女詩人よなれよ立派な腐葉土に。あらゆることを詩でおもいあらゆることを詩でおこない一呼吸ごとに詩せよ。日記をかくようにたくさ・・・ 宮本百合子 「『静かなる愛』と『諸国の天女』」
・・・ ヨーロッパ大戦後の、万人の福利を希うデモクラシーの思想につれて、民衆の芸術を求める機運が起って『種蒔く人』が日本文学の歴史の上に一つの黎明を告げながら発刊されたのは大正十一年であった。ロマンティックな傾向に立って文学的歩み出しをしてい・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 大笑い いって参ります=いてまいりまち 枕=おまくわ 舌を出してジョラン ふずめ 中島貞子 東京女大 東北大学ドイツ文科哲学「文科って――何」「それが大変なの」「本当は・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ふだをかけてあるのがまるでころころ swing して居、番頭が、模様を気づかってだろう、窓から首を出したり引込めたりして居る、そうかと思うと、夫婦でしっかり抱きあって居るのもあれば、又、どの道、身じんまくをちゃんとして、と云う風に、着物をち・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
出典:青空文庫