・・・酒盃を小春に注がせてお睦まじいとおくびより易い世辞この手とこの手とこう合わせて相生の松ソレと突きやったる出雲殿の代理心得、間、髪を容れざる働きに俊雄君閣下初めて天に昇るを得て小春がその歳暮裾曳く弘め、用度をここに仰ぎたてまつれば上げ下げなら・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ 視角の概念とその用途は小学校でも楽に教えこまれる。これを教えておくと世の中に無用なけんかの種が一つ二つは減るであろうと思われるのである。 十六 歌舞伎座見物 二月の歌舞伎座を家族連れで見物した。三日前に座席・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・そういう夢のような幼時の記憶があるが、このように腰をかけながらついている杖などは杖としての珍しい用途であろう。力学的に考えるとやはりからだの安定を保つために必要な支柱の役をしていたに相違ない。 しかしこういうあらゆる杖に比べると、いわゆ・・・ 寺田寅彦 「ステッキ」
・・・プロバビリティの問題、エントロピーの時計の用途は存外に広いという事を思い出すに格好な時機ではあるまいか。 時。エントロピー。プロバビリティ。この三つは三つ巴のようにつながった謎の三位一体である。この謎の解かれる未来は予期し難いが、これを・・・ 寺田寅彦 「時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ」
・・・一家の経済は挙げて夫の自由自在に任せて妻は何事をも知らず、唯夫より授けられたる金を請取り之を日々の用度に費すのみにして、其金は自家の金か、借用したる金か、借用ならば如何ようにして誰れに借りたるや、返済の法は如何ようにするなど、其辺は一切夢中・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・勘という言葉は、いきやさびより遙かに用途も広汎で、現代の日常性に富んでいるのである。 ごく日本的な、この勘というものは、どんな歴史のいきさつの中から今日に伝わっているのだろう。由来、剣道、能楽などの秘伝は、最後は直感、綜合的なこの勘で、・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
埴輪というのは、元来はその言葉の示している通り、埴土で作った素焼き円筒のことである。それはたぶん八百度ぐらいの火熱を加えたものらしく、赤褐色を呈している。用途は大きい前方後円墳の周囲の垣根であった。が、この素焼きの円筒の中には、上部を・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫