・・・何カ月目だったか、とにかく彼女のいわゆるキューピーのような恰好をしていたのを、彼女の家の裏の紅い桃の木の下に埋めた――それも自分が呪い殺したようなものだ――こうおせいに言わしてある。で今度もまた、昨年の十月ごろ日光の山中で彼女に流産を強いた・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・を脱ぎ取って縁側へ並べたり子芋の突起を鼻に見立てて真書き筆でキューピーの顔をかき上げるものもあった。 何か西洋草花の球根だろうと思ったが、なんだかまるで見当がつかなかった。彼はわざわざそれを持って台所で何かしている細君に見せに行ったが、・・・ 寺田寅彦 「球根」
・・・たとえばセルロイドで作ったキューピーなどのてかてかした肌合や、ブリキ細工の汽車や自動車などを見てもなんだか心持ちが悪い。それでも年に一度ぐらいは自分の子供らにこんなおもちゃを奮発して買ってやらないわけではない。おもちゃその物の効果については・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・――でも西洋人の赤坊、キューピーさんみたいで可愛いそうだから、おばさん却ってお慰みかもしれませんよ」 せきは、自分の迂闊さに呆れて、そこそこに湯をきり上げて来た。間借人に対してはいつもあれ程要心深い自分がどうしてそれに目をつけなかっただ・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫