・・・「友吉にゃ、何を買うてやるんだ。」清吉は眼をつむったまゝきいた。「コール天の足袋。」「そうか。」と、彼はつむっていた眼を開けた。 妻は風呂敷包みを持って、寂しそうに再び出かけていた。 もっと金を持たせると元気が出るんだが・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・ これとは関係はないが、次の頁の脚註に、中世の博物学書に記述されたウニコール捕獲法というのが書いてある。純潔な処女をこの一角の怪獣の棲家へ送り込むと、ウニコールがすっかり大人しくなって処女の胸に頭をすりつけて来る。そこを猟師がつかまえる・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
・・・ 一廻りして帰りかけた時、コールテンの足袋を履いて居る足の指の先が痛くなって来た。 どうかするとつまずきそうになる。片手には大きな番傘を持ち、左の手は袖の口に入れて、袖口の処を一寸指先だけで内側にまげ肱を張って調子を取り、一足歩いて・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫