・・・泣きだす前のようなその子供の顔、……こうした suspense の状態が物の三十秒も続けられたろうか。 けれども子供の力はとても扉の重みに打ち勝てるようなものではなかった。ああしているとやがておお事になると彼は思わずにはいられなくなった・・・ 有島武郎 「卑怯者」
・・・あり一方が女であるのだから、その友情にどこやら恋の香りも漂っていそうに思われたり、恋愛と友情との境にある模糊とした感情の霞がひかれていて、きょうはそのあちら側へ、きのうはこちら側へと心の小舟の操られるサスペンスに、異性の友情の趣があるとでも・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・彼の見事さというものは、謂わば危くも転落しそうに見える房飾つきの水盃を、百尺竿頭に保っている、その際どいかね合いで、拍手は、その緊張に対し、そのサスペンスの精力に対してなされた。 素朴な云い方をもってすれば、私は、石坂洋次郎氏や横光氏そ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
出典:青空文庫