・・・そうして枯草の間に竜胆の青い花が夢見顔に咲いているのを見た時に、しみじみあの I have nothing to do with thee という悲しい言が思い出された。 巫女 年をとった巫女が白い衣に緋の袴をはいて・・・ 芥川竜之介 「日光小品」
・・・だ、台所から酒を追放したい気持から、がぶがぶ呑んで、呑みほしてしまうばかりで、常住、少量の酒を家に備えて、機に臨んで、ちょっと呑むという落ちつき澄ました芸は、できないのであるから、自然、All or Nothing の流儀で、ふだんは家の内・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・「何か面白い事がありますか」と、己は声を掛けた。 新聞を広げている両手の位置を換えずに、脚長は不精らしくちょいと横目でこっちを見た。「Nothing at all!」物を言い掛けた己に対してよりは、新聞に対して不平なような調子で言い放っ・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
出典:青空文庫