・・・彼等は教師の洒落や冗談までノートに取り、しかもその洒落や冗談を記憶して置く必要があるかどうか、即ちそれが試験に出るかどうかと質問したりした。彼等の関心は試験に良い点を取ることであり、東京帝国大学の法科を良い成績で出ることであり、昭和何年組の・・・ 織田作之助 「髪」
・・・従って赤鉛筆で棒を引いたり、ノートに抜き書きしたりするようなことは出来ない。そういうことの必要を思わぬこともないが、しかし窮屈な姿勢で読んだり、抜き書きしたりしておれば、読書のたのしみも半減するだろうと思われるのだ。たのしみと言ったが、僕は・・・ 織田作之助 「僕の読書法」
・・・だがその姿勢が悩みのために、支えんとしても崩されそうになるところにこそ学窓の恋の美しさがあるのであって、ノートをほうり出して異性の後を追いまわすような学生は、恋の青年として美しくもなく、また恐らく勝利者にもなれないであろう。 しかし私が・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・』という篇中のキイノートをなす一節がそのままうつして以てこの一篇の評語とすることが出来ると思います。ほのかにもあわれなる真実の蛍光を発するを喜びます。恐らく真実というものは、こういう風にしか語れないものでしょうからね。病床の作者の自愛を祈る・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・という題にて、鴎外の作品、なかなか正当に評価せられざるに反し、俗中の俗、夏目漱石の全集、いよいよ華やかなる世情、涙出ずるほどくやしく思い、参考のノートや本を調べたけれども、「僕輩」の気折れしてものにならず。この夜、一睡もせず。朝になり、よう・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・それにかかわらず教科書とノートばかりをたよりにする学生がかなり多数である一方には、また現代既成の科学を無視したために、せっかくいい考えはもちながら結局失敗する発明家や発見者も時々出て来る。 名所旧跡の案内者のいちばん困るのは何か少し・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ 学生にとっては教科書や教師のノートは立派な権威である。これらの権威を無批判的に過信する弊害は甚だ恐るべきものでなければならない。もしノートや教科書の教ゆる所をそのままに受け取り、それ以上について考える所も見る所もなかったらどうであろう・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・はなはだしく手前勝手な我田引水と思われそうな所説のあることは、自分でも認められ、そうしてはなはだ苦々しくも、おこがましくも感ずるのであるが、それをあえて修飾することなくそのままに投げ出して一つの「実験ノート」として読者の俎上に供する次第であ・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・それで結局は、何も別段得る物はなかったのであるが、でもせっかく考えた事だからと思って、ノートの端に書き止めておいた。その中のおもな事を改めてここに清書しておきたいと思う。 宣伝という文字自身には元来別にそう押しつけがましい意味はなく・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・彼の大多数の知識は主として耳から這入った耳学問と、そうして、彼自身の眼からはいった観察のノートに拠るものと思われる。 彼が新知識、特にオランダ渡りの新知識に対して強烈な嗜慾をもっていたことは到る処に明白に指摘されるのであるが、そういう知・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
出典:青空文庫