・・・「あぶないぞナ。」「なに大丈夫サ、大丈夫天下の志サ。おい車屋、真砂町まで行くのだ。」「お目出とう御座います。先生は御出掛けになりましたか。」「ハイ唯今出た所で、まア御上りなさいまし。」「イヤ今日は急いでいるから上りません。」「あなたもう・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・ 蓋を開くと中に小判が一ぱいつまり、月にぎらぎらかがやきました。 ハイ、ヤッとさむらいは千両函を又一つ持って参りました。六平はもっともらしく又あらためました。これも小判が一ぱいで月にぎらぎらです。ハイ、ヤッ、ハイヤッ、ハイヤッ。千両・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・さもなければあんまり早くアメリカ風になったという題でうつされている植民地的ハイカラーな日本娘のスナップがある。それはサン・アクメの写真にとられて外国の諸新聞や雑誌にのせられている。 これらの現象を見くらべたとき、すべての真面目なひとの心・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・一つの学校として、長年風雨に打ち叩かれた建物よりは、新らしい、高い、ハイカラーな校舎を持つ方が勿論結構である。お目出度い。けれども、私、或はそれより以前に幾年かの間彼処に馴染んだ人々は、誠之という名とともに、どんな庭や廊下を思い出すだろうか・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・ こういう特色をもった十九世紀初頭のライン州、トリエルの市にハインリッヒ・マルクスという上告裁判所付弁護士が住んでいた。そこに、一八一八年五月五日、一人の骨組のしっかりした男の子が産れ、カールと名付けられた。 マルクス家はユダヤ系で・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・そして、あの当時にあっては大変ハイカラーで欧州風の教養の匂いの高かった作品の中で、母なる作者の愛情と観察につつまれつつ活躍していた二人のヴァガボンドのうち、一人は言語学者としてイタリーへの交換学生として旅立っており、一人はもう若い物理学者と・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
・・・日本にのこっている封建的感情は、ハイ・ボールの一杯機嫌で気焔をあげるにしても、すぐ生殺与奪の権をほしいままに握った気分になるところが、いかにもおそろしいことである。この種の人々は、どこの国の言葉が喋れるにしろ、それは常に人間の言葉でなければ・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・文学においては、ドイツのハイネ、ロシアのツルゲーネフなどが新時代の黎明を語った時代で、一般の人々の自主独立的な生活への要望はきわめて高まっていた。ウィルヘルム二世は一八四七年、国内に信仰の自由を許す法律を公布した。ところが、僅か二年ばかりで・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・とめにアテナは大層ハイカラーに見えたのだろう。それで、一寸椅子にかけ、花の飾ってある机に向い、アテナを使って友達に手紙でも書いて見たかったのであろう。私にも、このような気持には覚えがある、十二三の頃、父が事ム所のタイプライター用紙を一箱だけ・・・ 宮本百合子 「木蔭の椽」
・・・ ハイ日本人というものは眼鏡と写真機をもっています、ですね。 四日。火曜日、夜中の二時。 早寝をしているはずなのに、こんな時間に手紙を書いたのではすっかり馬脚をあらわしてしまいますね。しかし、今夜は眠る前ぜひ一筆かきたい。けさついた・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫