・・・は僕等の隣に両手に赤葡萄酒の杯を暖め、バンドの調子に合せては絶えず頭を動かしていた。それは満足そのものと云っても、少しも差支えない姿だった。僕は熱帯植物の中からしっきりなしに吹きつけて来るジャッズにはかなり興味を感じた。しかし勿論幸福らしい・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・なお黒いセルロイドのバンドをしめていた。いかにも町の女房めいて見えた。胸を洗っているところを見ると、肺を病んでいるのだろうか、痩せて骨が目立ち、顔色も蒼ざめていた。「亀さん」は私の顔を見ると、えらいとこ見られたと大袈裟にいった。そして、こん・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・結び目をぐるりとうしろへ廻すのを忘れたのか、それとも不精で廻さないのか、いや、当人に言わせると、前に結ぶ方がイキだというのである。バンドは前に飾りがついているし、女は帯の上に帯紐をするし、おまけにその紐は前で結んでいるではないか、男の帯だっ・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・いずれが真珠、いずれが豚、つくづく主客てんとうして、今は、やけくそ、お嫁入り当時の髪飾り、かの白痴にちかき情人の写真しのばせ在りしロケットさえも、バンドの金具のはて迄。すっからかん。与えるに、ものなき時は、安(とだけ書いて、ふと他のこと考え・・・ 太宰治 「創生記」
・・・いつもバンドのとれたよごれた鼠色のフェルト帽を目深に冠っていて、誰も彼の頭の頂上に髪があるかないかを確かめたものはないという話であった。その頃の羅宇屋は今のようにピーピー汽笛を鳴らして引いて来るのではなくて、天秤棒で振り分けに商売道具をかつ・・・ 寺田寅彦 「喫煙四十年」
・・・ 肉桂の根を束ねて赤い紙のバンドで巻いたものがあった。それを買ってもらってしゃぶったものである。チューインガムよりは刺激のある辛くて甘い特別な香味をもったものである。それから肉桂酒と称するが実は酒でもなんでもない肉桂汁に紅で色をつけたの・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ それから教会の方で、賑やかなバンドが始まりました。それが風下でしたから、手にとるように聞えました。それがいかにも本式なのです。私たちは、はじめはこれはよほど費用をかけて大陸から頼んで来たんだなと思いましたが、あとで聞きましたら、あの有・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・スカートは袴の伝統をもって、きちんとたたんで襞をつけられ、バンドのうしろは袴腰の趣味で白細紐の飾りつきだった。 わたしには、メリンス絣の改良服が一つあった。その頃新小説に梶田半吉という画家のかいた絵が口絵にあって、肩の上に髪をたらした若・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・の人々、自身の卑猥さがそのことにあらわれている。問題がおこってから俄にローレンスの作品の社会的、文学的意味をジャーナリズムの上に語りはじめた同じ人たちが、出版のはじめから、「チャタレイ夫人の恋人」のバンドに刷られたアンケートが果して文学の問・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・ ――お前、私の前にはタマーラに、タマーラの前にはリョーリャに同じことを云ったじゃないの。 バンドつきカーキ色のコムソモールカの制服をつけて、カーチャは冷静だ。彼女はコムソモール・ヤチェイカの委員である。 ――全く場合が違う。ね・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
出典:青空文庫