・・・これを見ていると、なんだか現在のロシアでは三度のめしを食うのでもみんな号令でフォークやナイフを動かしているのではないかというような気がして来て、これでは自分のようなわがままな人間はとてもやりきれないだろうという気がするのであった。たとえば工・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・この御婆さんがせんだって手紙をよこしてその中に folk という字を使っている。ただ使っているばかりなら不思議はないが、その字に foot note が付いている。これは英国古代の字なりとあった。「ノート」を自分の手紙へつけるのも面白いが、・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・「フォーク!」と椅子にかけた若ばけものがテーブルを叩きつけてどなりました。「へい。これはとんだ無調法を致しました。ただ今、すぐ持って参ります。」と云いながら、その給仕は二尺ばかりあるホークを持って参りました。「ナイフ!」と又若ば・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・、日本の文学に共通な後進性として、鋭いフォークで刺されている。そして、スタインベックが旅行記をかいたように、その他ヨーロッパの誰彼が旅行記をかいたように、日本の作家には外国がかけないのであるというように云われた。 スタインベックの「ソヴ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・若いアメリカ人はそれを一瞥したが、フォークを取り上げようともせず、いきなり体じゅうで大きな大きな、涙の滲み出すように大きな伸びをした。「――ああ、ねぶたいです……」 眠たいのはもう馴れているとでもいうように、給仕は心得た顔つきで前菜・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・たらい、タオル、シャボン、箒、盆、皿、ナイフ、フォーク、スプーンなどという必需品さえなかった。医療材料、薬品も揃っていない。働いている人々といえば無能な医者と官僚主義に頭も心も痲痺している役人と、疲労困憊して自身半病人である少数の人々ばかり・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・ナイフを磨き、フォークと匙を光らせなければならない。だが、一方には、全く別にそうやって洗われた皿を一つ一つよごし、鉢を使い、テーブルに向ってナイフや匙をきたなくしてゆく人間がいる。それらの人は平気に、当然なこととして笑いながらタバコをふかし・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ナイフを磨き、フォークと匙を光らせていなければならない。だが、一方には、そうやって洗った皿を一つ一つまたよごし、鉢を使い、ナイフや匙をきたなくしてゆく人々がいる。それらの人々は全く平気に、全く当然なこととしてやっているのだが、何故これは当然・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・そして、栖方に挨拶して黙黙とフォークを持ったが、この佐官もひどくこの夕は沈んでいた。もう海軍力はどこの海面のも全滅している噂の拡がっているときだった。レイテ戦は総敗北、海軍の大本山、戦艦大和も撃沈された風説が流れていた。 珍らしいパン附・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫