・・・「――いいものがある。マカロニ! マカロニをたべましょうよ。買って来るわ、ハインツの出来ているのがあるだろうから」「私も行きましょう」 雨があがった桜並木の食糧品屋へ行って見た。戸がたっている。中で起きている気勢なので声をかけ、・・・ 宮本百合子 「九月の或る日」
・・・ ゴーリキイはマカロニ箱の上に腰かけて声高く読む。「……左胸のあらわなるはハートの無垢なるを示し……」 すると、煙草をふかしつつ仰向に横になっているスムールイが、口を挾む。「誰のがあらわなんだ?」「書いてないよ」「女の胸・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・初めはマカロニ箱にこしかけて、『ホーマー教訓集』『毒虫、南京虫とその駆除法、附・之が携帯者の扱い方』などという本を音読させられた。が、だんだん『アインホー』を読み、『捨児トム・ジョーンズの物語』を読み、「知らず知らずの間に読みなれて」彼にと・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・昨夜ここでマカロニを食べた二人連の春婦が同じ赤い着物と同じ連れで今夜はじゃがいもの揚げたのをナイフでしゃくって食べていた。食べながら遠いところのどっかへ向って腰をひねり、嬌笑した。失うべきものを持たぬロンドン人が月の下の街やのれんの奥にいた・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫