・・・ 北向きの三畳が多喜子の家では仕事部屋になっていて、東の高窓際にミシンがおかれ、仕事テーブル、アイロン台と、順に低い一間の明り窓に沿って並んでいる。赤い三徳火鉢に炭団を埋めたのを足煖炉代りにして、多喜子はもって帰った尚子の仮縫いの服の仕・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・――恐らく彼が、片手でルパシカの胸を抱え、右手で頻りに金髪を撫でつつ、決心しかねている今の瞬間、若いダーシェンカは、手ミシンを廻しながら、子供服の袖でもつけているであろう。 マリーナ・イワーノヴナは、殆ど一口も物を云わないでかけていた。・・・ 宮本百合子 「街」
・・・ほんとのお針女、日給僅か三フランを得るために、ある時はブルジョアの家に出張したり、またある時は、自家の小さな部屋――ミシンのところへ行くのにはマネキン人形をずらさなければならないという、そんな小さな部屋で働いたりしている貧しい「女裁縫師」で・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
出典:青空文庫