・・・博士に化けた Mephistopheles は或大学の講壇に批評学の講義をしていた。尤もこの批評学は Kant の Kritik や何かではない。只如何に小説や戯曲の批評をするかと言う学問である。「諸君、先週わたしの申し上げた所は御理解・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・「すると、メフィストフェレスは、この佐伯君という事になりますね。」私は、年齢を忘れて多少はしゃいでいた。「これが、むく犬の正体か。旅の学生か。滑稽至極じゃ。」 たわむれて佐伯の顔を覗くと、佐伯の眼のふちが赤かった。涙ぐんでいるのであ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ メフィストフェレスは雪のように降りしきる薔薇の花弁に胸を頬を掌を焼きこがされて往生したと書かれてある。 留置場で五六日を過して、或る日の真昼、俺はその留置場の窓から脊のびして外を覗くと、中庭は小春の日ざしを一杯に受けて、窓・・・ 太宰治 「葉」
・・・八 第一に指摘してくれられたのは、興行の時メフィストフェレスを勤められた伊庭孝君である。第一部で、ファウストの書斎に魔除のペンタグランマが画いてある場所は、シュウェルレである。これはチュウルシュウェルレで敷居である。それが鴨・・・ 森鴎外 「不苦心談」
出典:青空文庫