・・・ 浅草の劇場では以上述べたようなジャズ舞踊の外に必ず一幕物が演ぜられている。 戦争後に流行した茶番じみた滑稽物は漸くすたって、闇の女の葛藤、脱走した犯罪者の末路、女を中心とする無頼漢の闘争というが如きメロドラマが流行し、いずこの舞台・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・父の五十五回目の誕生日のとき、ベルリン大学にいた十九歳のカールはお祝として、それ迄につくった四十篇の詩と、悲劇の一幕と、喜劇小説の数章とをまとめて「永久の愛のわずかなしるしとして」この高貴な人がらをもつ父に贈った。或る人はいっている。カール・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ 栄三郎の小女お君は、内気に真心をつくしているのがしおらしかった。 一幕目で、朋輩の饒舌に仲間入りもせず、裏からお絹の舞台を一心に見ているところ、お絹が病気になってから、芝居の端にも、心は病床の主人にひかれている素振りが見え、真情に・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・ 劇の第一幕から終りまで、二つの型の対立的争闘が描かれてあるだけで、卓抜で精力的なコムソモールは、反動傾向の中にまじっている浮動的な分子を正しい建設に協力させ獲得するために組織的努力をすることも見落されているし、推移する工場内の情勢がお・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・この最後の一幕を通じて、凡そ二百人ばかりの、白いシャツを着た大群集が順ぐり高さの違う台の上にキレイに立ち並ばせられたまま、滝が落ちようが、石油が燃えようが、ろくに足一つ動かさず、終に幕という想像外の事実があるのだ。きっとこれはアメリカの大レ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・俺さえ予定には入れていなかった此は一幕だ。――ついでに、一寸手を貸すかな。真実は根もない憎みや恐怖や、最大の名薬「夢中」を撒くと、同類の胸も平気で刺すから愉快なものだ。ヴィンダー さてもう一息だ。俺の力の偉大さは、小さなものには著わされ・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ 第二の女 第三の女 非番の老近侍 帝の供人同宮人数多 法王の供人数多及び弟子達 イタリー、サレルノの農夫の老夫婦 人民数多、及び不信心な遊び者 第一幕 第一場 ・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
九月号の『婦人文芸』に藤木稠子という作者の戯曲「裏切る者」という一幕ものがのっていた。私は雑誌を開いたときその表題を見たのであったがつい用事に追われ、そのときはゆっくり作品を読む機会を失ってしまった。 ところが今日、あ・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・戯曲においては、同じ足ならしの一幕物若干が成ったのみで、三幕以上の作はいたずらに見放くる山たるにとどまった。哲学においては医者であったために自然科学の統一するところなきに惑い、ハルトマンの無意識哲学に仮りの足場を求めた。おそらくは幼いときに・・・ 森鴎外 「なかじきり」
・・・先頃沼波武夫君は一幕物の中のサロメの誤訳を指摘してくれられた。近比伊庭孝君は同書の中の痴人と死との誤訳を指摘してくれられた。それ等も改版の折に訂正したく思っている。十三 私は誤訳をしたのを、苦心が足りなかったのだと云った。そ・・・ 森鴎外 「不苦心談」
出典:青空文庫