・・・――淋しいのか我魂よ、 私は、一縷のかすかな白い煙が微風にもなびかず胸の裡を、静かに静かに立ちのぼって行くような心持を味う。 其は果して淋しさというべきだろうか 静けさなのではないか、 けれども、私は、その立ちのぼる煙の末が・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・した年といわれ、その理由は婦人作家の社会性が狭くて、自分の小さい生活と芸術境地を守りつづけてきているために、男の作家が軍事的社会風潮におしながされ、真実性のない長篇小説などを流行させているのに対して、一縷の芸術性を発揮したものと評された。「・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・ こういう幼年時代の暗い荒々しい境遇の中でゴーリキイの敏感な心に一縷の光りと美の感情を吹きこんだのは、祖母アクリーナの一種独特な存在であった。子供の時分は母親につれられて乞食をして歩いたアクリーナ。八つ位からレース編の女工になって素晴ら・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・何か生きて日本の女の生活のなかに今日も一縷のつながりをもってつたわっている。そのことは感じられるのではないだろうか。 貝原益軒が、「女大学」と呼ばれて徳川時代ずっと女の道徳の標準となった本をかいたのは宝永七年というから、十八世紀の初頭の・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・しかし、そういう物の一つも見えない水平線の彼方に、ぽっと射し露われて来た一縷の光線に似たうす光が、あるいはそれかとも梶は思った。それは夢のような幻影としても、負け苦しむ幻影より喜び勝ちたい幻影の方が強力に梶を支配していた。祖国ギリシャの敗戦・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫