・・・ その×は色の白い女のように優しい子であったが、それが自分に対して特別に優し味と柔らか味のある一風変った友達として接近していた。外の事は覚えていないがただ一事はっきり覚えているのは、この子が自分にときどき梟をやろうとか時鳥をやろうとかま・・・ 寺田寅彦 「鷹を貰い損なった話」
・・・京にいでて一風の画を描出す。唐画にもあらず。和風にもあらず。自己の工夫にて。新裳を出しければ。京じゅう妙手として。皆まねをして。はなはだ流行せり。今に至りてはそれも見あきてすたりぬ。また江戸は奥州のかたへ属して。気質も京人のようにはなし。唐・・・ 寺田寅彦 「人の言葉――自分の言葉」
・・・ 私の弟妹たちは一風も二風も其々に変って居ります。実に変っている。 太郎は今安積で、日にやけ、田舎の子と遊んで居る由、結構です。土のこわいようなものが出来上っては仕方がありませんから。少しはよその子とケンカして泣くのもよいでしょう。・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・テンコウは砂糖のうちでやすい、赤っぽいてんこ砂糖です。一風あるでしょう。息子さんはラスキンの研究家で、元オーキという婦人服やのあったところへ茶をのませる博物館めいたものをこしらえています。ローザというのがラスキンの愛した女のひとであったそう・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 一つの着眼であると思われたが、作家は何の力によって成長展開するかという前途多難な課題の内からみると、あの三通りのそれぞれ一風変った名の持主たちの出現と存在とは、さらに一歩を深めて、それぞれの作家がその精神のうちにもって生きている人及び・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ そういう社会的不安を反映する文学の創作についての問題を究明するに当って、ブルジョア作家たちのとった態度は、注目すべき一風変ったものがあった。それらの作家たちは、日本の今日の階級社会の生活が現実として彼らにも与えている苦悩、不安、社会的・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・だが、大詰の場面にパッと本物、次には全く本ものかと思うような、しかし人間で結んだところは奇抜で、メイエルホリドが、写真で見ても一風かわった風貌をもっている所以がうなずけるようだ。 動かない人形。つめたい人形。そういうものがもっている劇的・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 肇は千世子の額と一風変った髪形を思い出して居た。そして筒の中からの様な声でこんな返事をした。 暗い通りを横ぎると見えないポールのさきから青白い火花を散らして電車が一台走って行った。 肇は赤い柱の下に立って篤の手をさぐりなが・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
ある夜 細長い土間のところへ入って右手を見ると、そこがもう座敷で、うしろの壁いっぱいに箪笥がはめこんである。一風変った古風な箪笥で、よく定斎屋がカッタ・カッタ環を鳴らして町を担いで歩いた、ああいう箪笥で、田舎く・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・ざっくばらんにいえば、婦人で画を描く人、婦人で小説を書く人は、なんだか普通の女の人と服装から、見たところから違う、なんとなく一風変った風になってしまいます。それは生活が普通の女の人よりもう少し自由であり自分というものを主張しているのですから・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
出典:青空文庫