この話の主人公は忍野半三郎と言う男である。生憎大した男ではない。北京の三菱に勤めている三十前後の会社員である。半三郎は商科大学を卒業した後、二月目に北京へ来ることになった。同僚や上役の評判は格別善いと言うほどではない。しか・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・金さんの話で見りゃなかなか大したものだ、いわば世界中の海を跨にかけた男らしい為事で、端月給を取って上役にピョコピョコ頭を下げてるような勤人よりか、どのくらい亭主に持って肩身が広いか知れやしねえ」「本当にね、私もそう思うのさ。第一気楽じゃ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・会社員生活をしているから社会がみえたり、心境が広くなるわけではなく、却って月給日と上役の顔以外にはなんにもみえません。大学でつめこんだ少量の経済学も忘れてしまいました。勉強のできなくなる事、前から余り好きませんが、一層ひどいです。ぼくは東京・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ことしの春、よその会社と野球の試合をして、勝って、その時、上役に連れられて、日本橋の「さくら」という待合に行き、スズメという鶴よりも二つ三つ年上の芸者にもてた。それから、飲食店閉鎖の命令の出る直前に、もういちど、上役のお供で「さくら」に行き・・・ 太宰治 「犯人」
・・・少くも半年間は、いてもいなくても好いと云うことを、立派に上役から証明せられているのである。この恐怖心を懐いて、チルナウエルは生涯の思出だと思いながら、出来るだけの受用をしている。 伯爵家では郵便が来る度に、跡継ぎの報告を受け取って、その・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・重ねて鈴木文史朗は「大家族をもっている月給取りは子供の少い上役より月収が多い。これは一面子供多産の奨励のようなものだ」といっているのである。読売新聞の時評はいち早くこの卓見に同調して、労働者に家族手当を出すので子供を生む。家族手当をやめよ、・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・性能を発揮するこそヒューマニズムであるとする論に、議論としては異議を認めなかった小市民知識人の大部分も、実際生活では自分たちのうけた知識人としての教養によって日々一定の時間に出勤し、或は労働し、同僚・上役との接触に揉まれ、技術上の問題、技術・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ 聖書 マンネリズム ○上役に対して。 ○パーマのこと。 二月頃 ○西村のこと。 マリモ 本屋、 六月 ミスタ、ミセス ピアス 七日。暑い日 さい 金魚、一匹を大きい二匹で追い廻し・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(二)」
・・・後、陸軍の経理部に入って、世間の血なまぐさい騒ぎと自分の財布とが或る落付きを得た五十一歳の時三十二も年下のロオルという上役の娘を妻にした。 いかにも南フランスの農民出らしい頑丈な、陽気な、そして幾らかホラ吹きな父ベルナールと、生粋のパリ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 皿洗いゴーリキイにとっての上役、太って大力な料理人スムールイが、年にあわせては背の伸びた、泣ごとを云ったことのないゴーリキイの天性に何か感じるものがあり、彼に目をかけた。午後の二時頃、暫く手がすくと、彼は号令をかけた。「ペシコフ、・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫