・・・彼が新聞に出そうと思った広告の下書きであった。『女中雇入れたし。家族二人。余暇有。十八歳以上。給。面談。』 広告は幸応えられた。 二日経って広告が掲載されると其朝、さほ子は、間誤付をかくした真面目な顔付で、一人の娘を食事部屋・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・二、作品の筋書、または未完成な下書きでもいい、作家はそれを工場クラブなどの一般集会で読んで、みんなの意見や忠告をきけ。三、各文学団体の間に行われる理論上のいろいろな論争を工場でやれ。四、われわれ革命的生産に従事する労働者は、作家・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ この八月中に下書きだけでも出来上らせて仕舞わなければならないと思って居るのに一向に筆が進まない。 考ばかり美くしく生れて来ても、手の方で甘く行って来ないのを思うと、私の頭が如何にも空虚な様で悲しくなる。 毎日毎日の真面目な努力・・・ 宮本百合子 「曇天」
・・・昨年五月発病当時も母は例の旅日記の下書きを整理中であったが、遂にそれを自身の手で完結する事が出来ず長逝したのであった。母が幼年及び少女時代を過した築地向島時代の思い出には、明治開化期前後の東京生活が髣髴として興味ふかく初霜には若かりし父母の・・・ 宮本百合子 「葭の影にそえて」
出典:青空文庫