・・・野菜や果物等のはしりや季節はずれの物も不可でそのしゅんのものが最もよいそうである。この見地からするとどうやら外米は吾々には自然でなく、栄養上からもよいとは云えないことになりそうだ。しかし、食わずに生きてはいられない。が、なるべく食いたくない・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・それを見ると東坡巾先生は悲しむように妙に笑ったが、まず自ら手を出して喫べたから、自分も安心して味噌を着けて試みたが、歯切れの好いのみで、可も不可も無い。よく視るとハコべのわかいのだったので、ア、コリャ助からない、とりじゃあ有るまいし、と手に・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・僕の言ったことを君は守らんければ不可よ。尺八を買わないうちに食って了っては不可よ。」「はい食べません、食べません――決して、食べません。」 と、男は言葉に力を入れて、堅く堅く誓うように答えた。 やがて男は元気づいて出て行った。施・・・ 島崎藤村 「朝飯」
・・・私がそれじゃ不可と言うと、そこで何時でも言合でサ……家内が、父さんは繁の贔負ばかりしている、一体父さんは甘いから不可、だから皆な言うことを聞かなくなっちまうんだ、なんて……兄の方は弱いでしょう、つい私は弱い方の肩を持つ……」 学士は頬と・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・兄貴に食わして貰うのは卒業後不可能です。母の悲歎を思えば神崎の如き文学青年の生活も出来ないし、一つには会社員と云う生活もしてみたかったのです。会社に入って一月半、君は肉体が良いから、朝鮮か満洲に行って貰いたいと頼まれました。母や兄と一緒の窮・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・可もなく、不可もない「スケッチ」というものであろうか。あれを、見なければよかったのだ。「聖母子」に、気がつかなければ、よかったのだ。私は、しゃあしゃあと書けたであろう。 さっきから、煙草ばかり吸っている。「わたしは、鳥ではありませぬ・・・ 太宰治 「俗天使」
・・・自分では何事も知らない間に、この可憐な小動物の肉体の内部に、不可抗な「自然」の命令で、避け難い変化が起こりつつあった。そういう事とは夢にも知らない彼女は、ただからだに襲いかかる不可思議な威力の圧迫に恐れおののきながら、春寒の霜の夜に知らぬ軒・・・ 寺田寅彦 「子猫」
・・・しかし今度襲われる地方がどの地方でそれが何月何日ごろに当たるであろうということを的確に予知することは今の地震学では到底不可能であるので、そのおかげで台湾島民は烈震が来れば必ずつぶれて、つぶれれば圧死する確率のきわめて大きいような泥土の家に安・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・ところが不可ないことには私にその勇気がなかったので、もう二つの桶をあっちの石垣やこっちの塀かどにぶっつけながら逃げるので、うしろからは益々手をたたいてわらう声がきこえてくる……。 そんな風だから、学校へいってもひとりでこっそりと運動場の・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・所が虚子がそれを読んで、これは不可ませんと云う。訳を聞いて見ると段々ある。今は丸で忘れて仕舞ったが、兎に角尤もだと思って書き直した。 今度は虚子が大いに賞めてそれを『ホトトギス』に載せたが、実はそれ一回きりのつもりだったのだ。ところが虚・・・ 夏目漱石 「処女作追懐談」
出典:青空文庫