・・・ 以上、でたらめに本をひらいて、行きあたりばったり、その書き出しの一行だけを、順序不同に並べてみましたが、どうです。うまいものでしょう。あとが読みたくなるでしょう。物語を創るなら、せめて、これくらいの書き出しから説き起してみたいものです・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 長い線路の上にはじめ等間隔に配列された電車が、運転につれて間隔に不同を生じる。そうして遅れるものと進むものとが統計上三または四の平均週期で現われるとすると、若干時の後に実現される運転状況は、私がこの編の初めに記述したとだいたい同じよう・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・それが週期的ないし非週期的の異同の波によって歳々の不同を示す。 この平均温度というものが往々誤解されるものである。どうかするとその月にその温度の日が最も多いという意見に思いちがえられるのである。しかし実際は月の内でその月の平均温度を示し・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・長いガラスの円筒の直径をカリパーのようなもので種々の点で測らせ、その結果を適当な尺度に図示して径の不同を目立たせて見るのもよい。これはつまらぬ事件のようであるが、実際自分の経験では存外生徒の実験的趣味を喚起する効果があるようである。あるいは・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・政府にては学校といい、平民にては塾といい、政府にては大蔵省といい、平民にては帳場といい、その名目は古来の習慣によりて少しく不同あれども、その事の実は毫も異なることなし。すなわち、これを平民の政といいて可なり。 古より家政などいう熟字あり・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ 大小不同の歩き工合の悪い敷石を長々と踏んで、玄関先に立つと、すぐ後の車夫部屋の様な処の障子があいて、うす赤い毛の、ハッキリした書生が、 どなた様でいらっしゃいますか。ときいた。「昆田」と云う誰でもが覚えにくがる栄蔵・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
出典:青空文庫