・・・道で見た二三本の立木は、大きく、不細工に、この陰気な平地に聳えている。丁度森が歩哨を出して、それを引っ込めるのを忘れたように見える。そこここに、低い、片羽のような、病気らしい灌木が伸びようとして伸びずにいる。 二人の女は黙って並んで歩い・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
喜美子は洋裁学院の教師に似合わず、年中ボロ服同然のもっさりした服を、平気で身につけていた。自分でも吹きだしたいくらいブクブクと肥った彼女が、まるで袋のようなそんな不細工な服をかぶっているのを見て、洋裁学院の生徒たちは「達磨・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・ やかましく騒ぐ音が廊下にして、もう血のしみ通った三角巾で思い/\にやられた箇所を不細工に引っくゝった者が這入ってきた。どの顔も蒼く憔悴していた。 脚や内臓をやられて歩けない者は、あとから担架で運ばれてきた。「あら、君もやられた・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・道で見た二三本の立木は、大きく、不細工に、この陰気な平地に聳えている。丁度森が歩哨を出して、それを引っ込めるのを忘れたように見える。そこここに、低い、片羽のような、病気らしい灌木が、伸びようとして伸びずにいる。 二人の女は黙って並んで歩・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・なんて不細工な棚なんだ。からみ附くのに大骨折りさ。でも、この棚を作る時に、ここの主人と細君とは夫婦喧嘩をしたんだからね。細君にせがまれたらしく、ばかな主人は、もっともらしい顔をして、この棚を作ったのだが、いや、どうにも不器用なので、細君が笑・・・ 太宰治 「失敗園」
・・・同時に普通の意味でのデッサンの誤謬や、不器用不細工というようなものが絵画に必要な要素だという議論にやや確かな根拠が見つかりそうな気がする。手品の種はここにかくれていそうである。 セザンヌはやはりこの手品の種を捜した人らしい。しかしベルナ・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・時々休んで何か捜すような様子をするかと思うとまた急いで下りて行く、とうとう枝の二叉に別れたところまで来ると、そこから別の枝に移って今度は逆に上の方へ向いて彼の不細工な重そうな簑を引きずり引きずり這って行くのであった。把柄のような長い棒がいか・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・自分の知っている狭い範囲だけでも蕪村、高陽のごとき人の傑作に対する時は、そこに幾多の不細工あるいは不恰好が優れた器用と手際との中に巧みに入り乱れ織り込まれて、ちょうど力強い名匠の音楽の演奏を聞くような感じがするのである。殊に例えば金冬心や石・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・こんな事を云ってしまつの悪い二本の不細工な手を卓子の上にパタッとなげつけた。まぎらそうとして本箱の本を見ては一々その中の事を思い出して居る。順々に見て居ると私のすきなのが二冊見えない。又あれがもってんだと思うと、すぐだらしのない、ウジウジし・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・鳥屋は別当が薄井の爺さんにことわって、縁の下を為切って拵えて、入口には板切と割竹とを互違に打ち附けた、不細工な格子戸を嵌めた。 或日婆あさんが、石田の司令部から帰るのを待ち受けて、こう云った。「別当さんの鳥が玉子を生んだそうで、旦那・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫