・・・今ごろはずいぶん保吉を不良少年と思っていそうである。一そ「しまった」と思った時に無躾を詫びてしまえば好かった。そう云うことにも気づかなかったと云うのは……… 保吉は下宿へ帰らずに、人影の見えない砂浜へ行った。これは珍らしいことではない。・・・ 芥川竜之介 「お時儀」
・・・「やっぱり消化不良ですって。先生も後ほどいらっしゃいますって」妻は子供を横抱きにしたまま、怒ったようにものを云った。「熱は?」「七度六分ばかり、――ゆうべはちっともなかったんですけれども」自分は二階の書斎へこもり、毎日の仕事にとりかかった。・・・ 芥川竜之介 「子供の病気」
・・・が、三重子は半年の間に少しも見知らぬ不良少女になった。彼の熱情を失ったのは全然三重子の責任である。少くとも幻滅の結果である。決して倦怠の結果などではない。…… 中村は二時半になるが早いか、爬虫類の標本室を出ようとした。しかし戸口へ来ない・・・ 芥川竜之介 「早春」
・・・ 一つの乳牛に消化不良なのがあって、今井獣医の来たのは井戸ばたに夕日の影の薄いころであった。自分は今井とともに牛を見て、牧夫に投薬の方法など示した後、今井獣医が何か見せたい物があるからといわるるままに、今井の宅にうち連れてゆくことに・・・ 伊藤左千夫 「奈々子」
・・・ 私は多くの不良少年の事実に就いては知らないが、自分の家に来た下女、又は知っている人間の例に就いて考えて見れば、母親の所謂しっかりした家の子供は恐れというものを感ずる、悪いという事を知る。しかし、母親が放縦であり、無自覚である家の子供は・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・いまでも、栄養不良の者は肝油たらいうてやっぱり油飲むやおまへんか。それ考えたら、石油が肺に効くいうたことぐらいは、ちゃんと分りまっしゃないか。なにが迷信や、阿呆らしい」 女はさげすむような顔を男に向けた。 私は早々に切りあげて、部屋・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・里子の時分、転々と移っていたことに似ているわけだったが、しかしさすがの父も昔のことはもう忘れていたのか、そんな私を簡単に不良扱いにして勘当してしまいました。しかし勘当されたとなると、もうどこも雇ってくれるところはなし、といって働かねば食えず・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 大阪弁が出たので、紀代子はちらと微笑し、「用がないのに踉けるのん不良やわ。もう踉けんときでね。学校どこ?」「帽子見れば分りまっしゃろ」「あんたとこの校長さん知ってるわ」「いいつけたらよろしいがな」「いいつけるよ。本・・・ 織田作之助 「雨」
・・・そして耕吉の窓の下をも一二度、口鬚の巡査は剣と靴音とあわてた叫声を揚げながら、例の風呂敷包を肩にした、どう見ても年齢にしては発育不良のずんぐりの小僧とともに、空席を捜し迷うて駈け歩いていた。「巡査というものもじつに可愛いものだ……」耕吉は思・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・ 無産政党 いまだに、無産政党とか、労農党とかいうと危険な理窟ばかりを並べたて、遊んで食って行く不良分子の集りとでも思っている百姓がだいぶある。 彼等には、既成政党とか、無産政党とか、云ったゞけでは、それがどういうも・・・ 黒島伝治 「選挙漫談」
出典:青空文庫