・・・それから右にじょあんなおすみ、中央にじょあん孫七、左にまりやおぎんと云う順に、刑場のまん中へ押し立てられた。おすみは連日の責苦のため、急に年をとったように見える。孫七も髭の伸びた頬には、ほとんど血の気が通っていない。おぎんも――おぎんは二人・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・四人はクララを中央に置いて黙ったままうずくまった。 平原の平和な夜の沈黙を破って、遙か下のポルチウンクウラからは、新嫁を迎うべき教友らが、心をこめて歌いつれる合唱の声が、静かにかすかにおごそかに聞こえて来た。(一九一七、八、一五、於・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ 室内のこの人々に瞻られ、室外のあのかたがたに憂慮われて、塵をも数うべく、明るくして、しかもなんとなくすさまじく侵すべからざるごとき観あるところの外科室の中央に据えられたる、手術台なる伯爵夫人は、純潔なる白衣を絡いて、死骸のごとく横たわ・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・晩年には益々昂じて舶来の織出し模様の敷布を買って来て、中央に穴を明けてスッポリ被り、左右の腕に垂れた個処を袖形に裁って縫いつけ、恰で酸漿のお化けのような服装をしていた事があった。この服装が一番似合うと大に得意になって写真まで撮った。服部長八・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・レエルモントフのコウカサスに於ける、薄倖の革命詩人、レヴィートフの中央ロシヤの平原に於けるそれであった。 彼等は、この広い天地に、曾て、自分を虐遇したとはいえ、少年時代を其処に送った郷土程、懐かしいものを漂浪の間に見出さなかった事である・・・ 小川未明 「彼等流浪す」
・・・ 私の実見は、唯のこれが一度だが、実際にいやだった、それは曾て、麹町三番町に住んでいた時なので、其家の間取というのは、頗る稀れな、一寸字に書いてみようなら、恰も呂の字の形とでも言おうか、その中央の棒が廊下ともつかず座敷ともつかぬ、・・・ 小山内薫 「女の膝」
・・・これから中央局へ廻ってこの原稿を速達にして来なくっちゃ、間に合わんのだ」「原稿も原稿だが、式も間に合わないよ」「いや、たのむから、中央局へ廻ってくれ」 到頭中央局へ廻ったが、さて窓口まで来ると、何を想い出したのか、また原稿を取り・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・二人は中央の大テーブルに向い合って椅子に腰かけた。「どうかね、引越しが出来たかね?」「出来ない。家はよう/\見附かったが、今日は越せそうもない。金の都合が出来んもんだから」「そいつあ不可んよ君。……」 横井は彼の訪ねて来た腹・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・彼らは自分を見るや一同起立して敬礼を行なう、その態度の厳粛なるは、まだ十二分に酔っていないらしい。中央に構えていた一人の水兵、これは酒癖のあまりよくないながら仕事はよくやるので士官の受けのよい奴、それが今おもしろい事を始めたところですと言う・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・彼は牛の番をしながら、中央の柱に緒をかけ、その両端を握って、緒よ延びよとばかり引っぱった。牛は彼の背後をくるくる廻った。 三 健吉が稲を刈っていると、角力を見に行っていた子供達は、大勢群がって帰って来た。彼等は、帰る・・・ 黒島伝治 「二銭銅貨」
出典:青空文庫