・・・そうしてそれらの技術官は一国の政治の本筋に対して主動的に参与することはほとんどなくて、多くの場合には技術にうとく理解のない政治家的ないし政治屋的為政者の命令のもとに単に受動的にはたらく「機関」としての存在を享楽しているだけである、と言っても・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・もともと実験の教授というものは、軍隊の教練や昔の漢学者の経書の講義などのように高圧的にするべきものではなく、教員はただ生徒の主動的経験を適当に指導し、あるいは生徒と共同して新しい経験をするような心算ですべきものと思う。簡単な実験でも何遍も繰・・・ 寺田寅彦 「物理学実験の教授について」
・・・……この弊を矯めるには演奏会で受けた感動を、その後に何か主動的な方法で表現しないではおかないという習慣をつければいい。それはどんな些細な事でもかまわない。たとえば自分の祖母にやさしい言葉をかけるとか、乗合馬車で座席を譲るとかいうくらいな事で・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・の柔らかく低いピッチに比べると、どうしても違った積極的主動的の音色を思わせる。なんとなく、たとえば芭蕉がヴァイオリン、野坡がセロとでもいったような気がするのである。それから「娘を堅う人にあわせぬ」と強く響くあとに「奈良通い同じつらなる細元手・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・よきにつけあしきにつけ主動的であり、積極的である男心に添うて、娘としては親のために、嫁いでは良人のために、老いては子のために自分の悲喜を殺し、あきらめてゆかねばならない女心の悶えというものを、近松は色彩濃やかなさまざまのシチュエーションの中・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ 科学は理性の主動するもの、芸術文学は感情、感覚が主として発動するものという簡単な区分の方法は、今日科学者の理解からも文学者の理解からも、もう少し複雑に、所謂科学的に高められて来ている。ファブルなどの時代では、文学に於ても十分問題である・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・現実反映とこの散文精神の相違は、後者があくまでも社会現実に向って主動的なダイナミックな本質でなければならないことが唱えられた。しかしなおこの散文精神の提唱もその真の動性を可能ならせる内的な力を明かにし得ていなかったことは見逃し得ない点であろ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 私たち日本の人民は、やっとこのごろ、自分たち人民としての自信と主動性とを理解して来たような段階にある。漸く、永年強いられて来た欺瞞に盲従する習慣から脱して、少しずつ、人民の生存は人民の知慧、判断、行動で守り、平和と安定を日常にもたらそ・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・歴史はいつもすぎたこととして感じとられ、今日という今の刻々が歴史そのものであり、しかも今の刻々には、過去のどの時代ともちがった条件で、人間の主動的な善意、熱意による変革を加えることのできるおどろくべき可能がひらかれているという事実が、割合実・・・ 宮本百合子 「なぜ、それはそうであったか」
・・・この小説は題が示す通り、一人の若いインテリゲンツィアの女が、人間的な生活を求めて或る一人の男と結婚をしたが、その結婚生活がその女の求めていたような理解の上に営むことが出来ないため、女も男も苦しみ、女が主動的にそれを破壊するに至った過程を描い・・・ 宮本百合子 「「伸子」について」
出典:青空文庫