・・・山間水涯に姓名を埋めて、平凡人となり了するつもりに料簡をつけたのであろう。或人は某地にその人が日に焦けきったただの農夫となっているのを見たということであった。大噐不成なのか、大噐既成なのか、そんな事は先生の問題ではなくなったのであろう。・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・当下に即ち了するという境界に至って、一石を下す裏に一局の興はあり、一歩を移すところに一日の喜は溢れていると思うようになれば、勝って本より楽しく、負けてまた楽しく、禽を獲て本より楽しく、獲ずしてまた楽しいのである。そこで事相の成不成、機縁の熟・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・ここに書くところは即ち予の懺悔で、彼宿因を了する所以だ。人は社会を成す動物だ。樵夫は樵夫と相交って相語る。漁夫は漁夫と相交って相語る。予は読書癖があるので、文を好む友を獲て共に語るのを楽にして居た。然るに国民之友の主筆徳富猪一郎君が予の語る・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫