・・・王女はそれを聞かないさきから、だれとも分らないその王子の立派な人柄に、ないないかんしんしていました。それがりっぱな王子だと分ったので、おむこさんとして何一つ申し分がありません。王女は大よろこびで夜があけるとすぐに王さまのところへいって、ゆう・・・ 鈴木三重吉 「ぶくぶく長々火の目小僧」
・・・それから、また、吉井勇の人柄を、とても好いていました。次兄は、酒にも強く、親分気質の豪快な心を持っていて、けれども、決して酒に負けず、いつでも長兄の相談相手になって、まじめに物事を処理し、謙遜な人でありました。そうしてひそかに、吉井勇の、「・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・私は自身のこの不安を、友人に知らせたくなかったので、懸命に佐吉さんの人柄の良さを語り、三島に着いたらしめたものだ、三島に着いたらしめたものだと、自分でもイヤになる程、その間の抜けた無意味な言葉を幾度も幾度も繰返して言うのでした。あらかじめ佐・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・わたくしはあなたの人柄を推察して、こう思います。あなたは決して自分のなすった事の成行がどうなろうと、その成行のために、前になすった事の責を負わない方ではありますまい。又あなたは御自分に対して侮辱を加えた事の無い第三者を侮辱して置きながら、そ・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・そのように、一種不思議のおくめんなき人柄を持っていた地平でも、流石におのれ一人、縞の春服を着て歩けなかった。生活派の人たちにすまないと言うのである。私は、それについても、地平はだめだ、芸術家は、いつでも堂々としていたい、鼠のように逃げぐち計・・・ 太宰治 「喝采」
・・・家来というものは、その人柄に於いて、かならず、殿様よりも劣っているものである。あの庭園の私語も、家来たちのひねこびた自尊心を満足させるための、きたない負け惜しみに過ぎなかったのではあるまいか。とすると、慄然とするのだ。殿様は、真実を掴みなが・・・ 太宰治 「水仙」
・・・「不思議な、人を牽き付ける人柄である。干からびたいわゆるプロフェッサーとはだいぶ種類がちがっている。音楽家とでもいうような様子があるが、彼は実際にそうである。数学が出来ると同じ程度にヴァイオリンが出来る。充分な情緒と了解をもってモザルト・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・自分は同行者の温順な謙譲な人柄からその人がベデカの権威に絶対的に服従してベデカを通しての宮園のみを鑑賞する態度を感心もしまた歯がゆくも思った。しかし考えてみると、多くの自然科学の学生がその研究の対象とする自然を見るのに、あるいは教科書を通し・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・これは世界中でいつも問題になる事であるが、ことにああいう窮屈な場所では断る事にした方が、第一その婦人の人柄のためにかえってよくはないかと思われる。 一段高くなっている舞台は正方形であるらしい。四隅の柱をめぐって広い縁側のようなものがある・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・学者で同時に政治家らしいペンク教授の人柄がやはり反映しているような気もした。いつか、カナダのタール教授が来て氷河に関する話をしたときなど、ペンクは色々とディスクシオンをしながら自分などにはよく分らぬ皮肉らしいことを云って相手を揶揄しながら一・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
出典:青空文庫